地方から建設業界に新しい風を!建設DXコミュニティ「ON-SITE X」と加和太建設がもたらす、現場発のDX革命【後編】

建設DXコミュニティ「ON-SITE X」を企画・運営する、加和太建設株式会社 近藤氏のインタビュー。前編では、加和太建設および近藤氏の略歴と、建設DXコミュニティ「ON-SITE X」立ち上げの経緯について伺いました。後編では、「ON-SITE X」が建設業界に提供する価値や、日頃の活動内容についてお聞きします。

地方から建設業界に新しい風を!建設DXコミュニティ「ON-SITE X」と加和太建設がもたらす、現場発のDX革命【前編】

人手不足や技能継承、長時間労働などが課題視される建設業界。近年ではITツールを活用した業務効率化が進んでいますが、特に地方建設会社ではまだま… more

ビルドアップニュース

現場の知恵・ノウハウが全国につながる「ON-SITE X」

-【新井本】「ON-SITE X」の具体的な活動内容についてお聞かせください。

【近藤】コミュニティでは主に以下4つの活動を行っています。

  1. 1.建設テックのスタートアップおよび地方建設会社の優良事例のシェア
  2. 2.技術者交流会
  3. 3.地域横断ナレッジシェア
  4. 4.次世代現場リーダー育成

毎月、オンラインイベントを定期的に開催し、建設業界のDX化に関する多様なテーマで情報発信を行っています。参加者は経営層や現場監督だけでなく、設計や積算、バックオフィスなど幅広い職種に及びます。イベントの特徴は、スタートアップが最新の技術や事例を紹介するだけでなく、先進的に取り組む建設会社にも登壇してもらい、現場課題や導入に至る苦労、成果を出すための工夫などを共有する点です。こうした具体的な事例に触れることで、参加企業のDXへの関心が高まり、「自社でも挑戦してみよう」という後押しにつながっています。

技術者交流会は、三島市の弊社オフィスや東京でオフライン開催し、リアルな場ならではの情報交換や、地域を越えた関係性づくりの場として運営しています。現場技術者が自社の枠に閉じず、他社との交流を通じて優れた取り組みを学び、自社に持ち返って実践する。この積み重ねが、建設DXやスタートアップ共創を広げる推進力になっています。

-コミュニティ内で挙がった課題意識や情報共有の実際の事例について、詳しく教えてください。

共通する大きな課題意識のひとつは、アナログ作業や属人的な業務をいかに効率的にしていくか、という点です。例えば、現場のレンタル業務が電話やメールに依存しており、手配にかかる時間や手間の労力や、レンタル物品の管理に課題がありました。そこで、スタートアップ企業「SORABITO」に自社現場にも来てもらい、アプリを活用したレンタル業務のDX化を現場で一緒に実証しました。現場の課題とスタートアップの技術が結びつくことで、新しい解決策が形になった事例です。

また、地方建設業におけるBIM活用も大きな関心領域です。大手ゼネコンでの事例は増えていますが、地方では活用の実態や成果が見えにくいのが現状です。そこで、地方でも先進的にBIMを活用している建設会社と関係を築き、実際の取り組みや成果を共有してもらう場を設けました。

こうした具体的な事例は、オンライン・オフラインのコミュニティイベントを通じて参加企業に還元しています。リアルな経験や成果を共有することで、コミュニティ全体での知見蓄積と共創の拡大に繋がっています。

-素晴らしい取り組みですね。建設テックのスタートアップ企業と、チャレンジングな地方建設企業が集まるからこそできる共創だと感じます。

「人材育成」も、どの建設会社からも必ず上がる共通課題のひとつです。現場のノウハウは往々にして各社や現場内に閉じてしまい、肝心な知見ほど暗黙知のまま受け継がれてきました。しかし今、ベテランからの技術継承と若手の早期育成は、業界全体の喫緊の課題となっています。

当社でも同じ課題を強く感じ、解決のためには知見を可視化し共有できる新しい仕組みが必要だと考えました。そこで自社開発に踏み切ったのが、現場のナレッジ共有システム「SCALE」です。全国の現場監督が、現場での困り事とその解決方法を投稿し合うことで、誰もが実践的な施行管理ノウハウにアクセスできる仕組みです。

地方の一社だけでは事例や知見に限界がありますが、SCALEを通じて利用企業同士がノウハウを蓄積し合うことで、自社に加えて全国の同業他社の様々な現場知見にも触れられるようになります。このデータベースを業界全体で育てることが、若手に選ばれる業界づくり、そして各社で若手が早期活躍できる環境づくりにつながると考えています。

2024年10月に正式運用を開始し、現在ナレッジの投稿数は2,500件を突破しました。スタートアップ共創だけでなく、建設会社同士でこうした共創型プロダクトを育てられるのは、まさにコミュニティという想いがつながった場があるからこそだと感じています。

現場の声が未来をつくる。地方発コミュニティだからこそできること

-コミュニティの運営は、時には志だけでは続けられない側面もあるかと思います。加和太建設が「ON-SITE X」を通して得ている価値は何でしょうか。

「ON-SITE X」の大きな魅力は、全国の地方建設会社同士がつながり、率直でコアな情報交換ができることだと考えています。当社にとっても、建設業界を変革するというミッションを掲げる企業として、仲間と共にその輪を全国へ広げていく活動は大きな意義があります。

また、コミュニティがあるからこそ、自社が開発した「SCALE」のようなプロダクトにも価値が生まれます。実際に利用してもらうことで改善点が見つかり、ON-SITE Xを持続可能な場として運営するための収益にもつながります。長期的なビジョンと短期的な成果、その両面を見据えながら運営しています。

さらに、ON-SITE Xという枠組みがあるからこそ、現場DXにとどまらず、まちづくりのように地域で新しい挑戦をしたい建設会社ともつながることができます。単なる情報交換にとどまらず、「地方から日本を元気にしたい」という想いを共有できる仲間づくりのプラットフォームになっていることも、大きな価値だと感じています。

-「ON-SITE X」の運営が軌道に乗るまでに苦労した点はありますか。

「このコミュニティでどんな価値を提供すれば、参加者の熱量を高められるのか」という軸を定めるのには大変苦労しました。立ち上げ当初はスタートアップを前面に押し出した発信や企画を行っていたのですが、いきなり共創をテーマにしても現場の共感を得にくく、参加者が思うように集まらない時期もありました。

そこで試行錯誤を重ねる中で学んだのは、まずは「外に目を向けること」や「地域を越えてつながること」が重要だということです。そうした場を通じて意識が変わり、その先に自然と共創が生まれていく。この気づきを踏まえ、徐々にコミュニティの活動内容を見直し、地方建設会社を中心に据えた企画へとシフトしてきました。

結果として、それぞれの建設会社が抱える課題や、解決に至るまでのプロセスをリアルに共有できるようになり、「他社はどう取り組んでいるのかを知りたい」というニーズにも応えられるようになりました。こうした変化が、現在117社にまで広がる大きな転機になったと考えています。

「ON-SITE X」今後の展望とは

-今後の「ON-SITE X」の展望についてお聞かせください。

これまでは、情報発信やリアルな場を通じて関係性を築くことに力を入れてきました。全国の建設会社がつながり、課題や事例を共有することで、互いに学び合える土台ができたと感じています。

次のステップでは、その土台を生かし、コミュニティの力で業界の進化を加速するプロダクトや標準をつくっていきたいと思います。現場では、同じ工程に複数のサービスが乱立している課題もありますが、地方建設業界が共通して使えるサービスを増やすことで、施工管理だけでなく協力業者も含めた業務全体の生産性向上につなげたいと考えています。

さらにその先には、建設会社がスタートアップにとって「場の提供者」であるだけでなく、ファンドのように出資する立場にも回り、共にサービスを育てていく仕組みを目指します。建設会社自身が業界の仲間を増やし、スタートアップと共にエコシステムを広げていくことで、「地方から日本を元気にする」動きを一層強めていきたいと思います。

建設会社がDXを推進するために重要なこと

-建設業界のDXにおいて、近藤さんは現状や課題をどのように認識していますか。

DXが目的化してしまい、「とにかくツールを入れなければならない」という発想が広がっていると感じます。しかし成果を出している会社は、例外なく「社内のどんな課題を解決したいのか」から出発しています。その解決策のひとつがツールであり、ツール自体がゴールではありません。

一方で、地方の建設会社ではDX推進を現場社員が持ち回りで担うことも多く、課題意識はあっても解決に必要なノウハウやITスキルが不足し、抜本的な改革に至らない現状があります。

-ツール頼みにならない建設DXを推進するために、今後必要なことは何でしょうか。建設業界でDX化に悩む皆さんにアドバイスがあればお願いします。

DXを考えるとき、まず必要なのは自社の課題を正しく把握することです。現場で困っている人の声を丁寧に聞き、その解決策を探す。その中には「新しいツールを入れる」よりも「今ある仕組みや運用方法を変える」ことで解決できるものも少なくありません。

これは「ON-SITE X」の考え方にも通じます。同じ悩みを持つ仲間が集まるからこそ、「一緒に解決しよう」という機運が生まれ、前に進めることができます。DXツールそのものよりも、既に様々な方法で課題解決をしている人たちと出会い、仲間を増やしながら解決に向かうことが大切だと思います。

建設DXはツール導入そのものではなく、課題を起点に仲間と共に解決へ向かう姿勢が大切です。まさにそのための場が「ON-SITE X」だと考えています。私たちの想いや活動に共感してくださる企業があれば、お気軽にご連絡をいただけると嬉しいです。

まとめ – BuildApp News 編集部感想 –

建設DXコミュニティ「ON-SITE X」は、建設業界が抱える様々な課題に対し、企業の枠を超えた「共創」で向き合う先進的な取り組みです。加和太建設が運営の中心を担い、地方建設会社やスタートアップ企業とのつながりを深める中で、実務に根差したDXの成果が着実に現れ始めています。

現場のリアルな課題を可視化し、業務効率化やナレッジ共有、次世代人材の育成まで多角的に支援するこのコミュニティの取り組みは、建設業界の未来を切り拓く大きな一歩となるでしょう。今後、「ON-SITE X」を通じた地方発の変革が業界全体の活性化へとつながっていくことに期待が高まります。

参考情報・リンク

ON SITE X

チャレンジングな地方建設会社と 建設業に取り組むスタートアップの建設DXコミュニティ

note_建設DXコミュニティON-SITE X

チャレンジングな地方建設会社とスタートアップのマッチングを行うコミュニティです。