地方から建設業界に新しい風を!建設DXコミュニティ「ON-SITE X」と加和太建設がもたらす、現場発のDX革命【前編】

人手不足や技能継承、長時間労働などが課題視される建設業界。近年ではITツールを活用した業務効率化が進んでいますが、特に地方建設会社ではまだまだアナログ業務が多くを占めているのが現状です。
今回は、建設DXコミュニティ「ON-SITE X」を企画・運営する、加和太建設株式会社の近藤氏にインタビューを行いました。インタビュワーは、建設業界のDX化支援を行うアーサー・ディー・リトル・ジャパン株式会社マネージャーの新井本氏です。
加和太建設では、自社で開発した建設業向けSaaSプロダクトを複数提供しており、新井本氏とはDX支援という共通点があります。建設業のDXにおいて「ON-SITE X」がどのように貢献するのかをお聞きしながら、業界の展望について語ります。
プロフィール

近藤 剛 氏(加和太建設株式会社 次世代事業本部 建設イノベーション推進部 事業統括責任者)
沼津工業高等専門学校を卒業後、東京大学大学院 社会基盤学専攻(土木工学)を修了。学びを通して土木領域がITとなじみ深いことを実感し、ITで日本を変えたいとの想いから、ICT企業へ就職。その後、地元・静岡県三島市が加和太建設によって魅力的な町へ変化していることを知り、「地方建設業の在り方を変える」というビジョンに共感して中途入社した。
新井本 昌宏 氏(アーサー・ディー・リトル・ジャパン株式会社 マネージャー)
メーカーにて生産技術、研究開発に従事。その後、複数のコンサルティングファームを経て現職。建設業、製造業における戦略策定、事業開発、業務改革を数多く経験。経営から現場までの一貫性と事業と技術の整合性を重視し、短期成果の獲得と中長期的に成果を獲得し続ける組織能力向上を同時に支援する。主な著書は、ゼネコン5.0(東洋経済新報社)/製造業R&Dマネジメントの鉄則(日刊工業新聞社)/3D活用でプロセス改革(日経BP社)等。
静岡県東部から元気なまちづくりを推進する加和太建設株式会社
-【新井本】御社の事業概要について教えてください。
【近藤】加和太建設は1946年に創業し、70年以上の歴史を持つ建設会社です。現在は3代目社長の河田亮一が代表を務めています。当社の根底にある想いは、「地方建設業のあり方を変え、地方から日本を元気にする」こと。そして、その実現に向けて掲げているビジョンが「世界が注目する元気なまちをつくる」です。この想いとビジョンを軸に、建設事業にとどまらず、地域づくりや業界変革に向けた様々な活動に取り組んでいます。
売上高は180億円、従業員は330名ほどで、2014年からは新卒採用に力を注いできました。現在は毎年15名ほどを採用しています。地元の若者に限らずUターン・Iターン就職者も多く活躍している会社です。
-地方の建設会社でありながら、それに留まらない幅広い事業を展開しているのが御社の特徴ですよね。

当社の事業領域は、ものづくり(土木・建築)、コトづくり(施設運営)・まちづくり(不動産開発)・建設業の変革づくり(Contech・ON-SITE X)と4つがあります。ものづくりの土木分野では国・県・市の公共工事を中心に地域インフラの整備を担い、建築分野では、静岡県東部エリアで幅広い建築を手がけるほか、首都圏ではデベロップメントと組み合わせた意匠性の高い建物も施工しています。本インタビュー場所「WOWK芝公園」もその代表的な事例の一つです。コトづくりでは、道の駅のPFI事業やキャンプ場運営など、地域の賑わいと交流を生む施設運営を展開。まちづくりでは、リノベーションによる空き家の再生や、地域コミュニティとの共同イベント、創業支援などを通じて地域の活性化に取り組んでいます。建設業の変革づくりでは、建設業向けのSaaSプロダクトの開発事業と、建設DXコミュニティの「ON-SITE X」を運営しています。
私たちは「地方建設業の在り方を変え、地方から日本を元気に」という想いのもと、ものづくりを軸に事業領域を広げています。静岡県東部・三島でのまちづくりを実践するとともに、全国各地の建設会社とつながることで、地域から新たな価値を生み出す仲間の輪を広げています。こうした取り組みを通じて、建設業が施工だけにとどまらず、地域の未来をつくる産業に発展していくことを目指しています。
地元・三島発で日本を元気にしたい。IT業界から建設業界へ転職

-近藤さんのご経歴と、加和太建設の存在を知った経緯についてお聞かせください。
私は加和太建設がある静岡県三島市が地元です。沼津工業高等専門学校で電気電子工学を学んだ後、東京大学 社会基盤学科(土木工学)に進学し、大学院まで土木を学びました。大学時代は地球温暖化や水資源に関する研究をしており、スーパーコンピューターに触れる機会が増えるにつれてITの魅力を感じたことから「ITの力で日本発の面白いものを作りたい」という想いが強くなり、卒業後、ICT企業へ就職しました。
ICT企業ではクラウドサービス開発に従事し、国内勤務に加えて、海外にも6年間ほど赴任していました。コロナ禍を迎えたときに香港から帰任となり、リモートワーク前提の働き方へ移行する中で地元・三島に戻ることを決め、地元に住みながら東京の会社へ通う生活が始まりました。その頃にスマートシティ事業を担当していたこともあり、三島のまちをあらためて見渡すと、以前よりもまちがアップデートされてこれまでとは異なる新しい賑わいや活気が生まれていることに気づきました。この変化の担い手を知りたいと思い調べてみると、その多くが加和太建設の取り組みであることがわかりました。これが私と会社との出会いです。
-学生時代に触れたITがきっかけでその業界に進み、建設を仕事にする予定はなかったのでしょうか。近藤さんが加和太建設に入社した理由が気になります。
就活当時は、ITの力を使って日本発で世界にいいものを届け、日本をより良くしたいという強い動機がありました。学生時代に土木を学んでいたこともあり、私の根底には公共的な発想があったのだと思います。
そんな中で三島が生まれ変わっていることを知ったとき、大手企業によるまちづくりと地場の企業が手掛けるまちづくりは何が違うのかという点に興味を持ちました。そこで社長に会いに行くと、「地域に根ざした建設会社だからこそ、地域とのつながりを生かして主体的にまちづくりに挑戦できる。そして、地元という自分たちのマーケットが良くなれば、そのことが結果的に自社の事業成長や新たな可能性にもつながっていく。まちの発展と自社の成長を両立できるのは、地方建設会社にしかできないことだ」という話を聞きました。
さらに、建設業はまだまだアナログな側面が多く残っており、そこにこそITの力が求められていることを知りました。一般的なスマートシティのように「まち」に直接ITを導入するのではなく、地域に根ざした産業である地方建設業にITを取り入れることで、新たな可能性を生み出し、地域と共にまちの発展を担うことができる。そうした取り組みのモデルを地元でつくり、全国の地方建設会社にも広げていくことができればひいては日本全体を良くしていけることにつながるのではないか ーー そう考え加和太建設への転職を決めました。
-加和太建設のビジョンに強く共感して転職に至ったのですね。普段は主にどのような業務に携わっていますか。
建設イノベーション推進部の事業統括責任者として、建設DXコミュニティ「ON-SITE X」の運営と、建設業向けの施工管理支援SaaS「IMPACT Construction」、現場監督のナレッジシェアSaaSの「SCALE」の開発・提供を担当しています。「ON-SITE X」は立ち上げ当初から携わり、様々なイベント企画やコミュニティの方向性の検討も含めて事務局を担っています。
建設DXコミュニティ「ON-SITE X」立ち上げへの想い

-「ON-SITE X」の概要と、立ち上げに至った背景についてお聞かせください。
「ON-SITE X」は、チャレンジングな地方の建設会社とスタートアップ企業とをつなぐ建設DXコミュニティです。
立ち上げの背景には、大きく二つの課題意識がありました。ひとつは、建設業が自動車産業に次ぐ国内第2位の市場規模を持ちながら、生産性向上や人手不足といった課題に直面しているにもかかわらず、スタートアップを中心とする建設テックが十分に広がっていないという現状です。もうひとつは、私たち自身の経験です。当社ではこれまで自社の課題解決を起点に建設業向けのSaaSを開発・提供してきましたが、業界が抱える課題の大きさや深さに向き合うには、業界内の力だけでは不十分であり、業界外の優れた人材やアイデアを引き込み、共創によって取り組むことが不可欠だと感じていました。
特に地方建設業では、現場担当者が地域を越えて外部と関わる機会が限られており、現場課題の多くは個社や現場ごとの努力に委ねられがちです。担当者が持つ知見も現場内に閉じてしまい、外部と共有されにくい。一方でスタートアップ側も、建設業界が抱える具体的な課題が見えづらく、つながりを持ちたくても持てない状況が続いていました。
そこで、建設業とスタートアップの接点をつくり、スタートアップの持つ知見や技術を生かした共創活動を促進することで、業界の変革を加速させる取り組みとして、2022年に「ON-SITE X」を立ち上げました。大手ゼネコンであれば資本力や規模を生かして個社でスタートアップ連携も可能ですが、地方建設業だからこそ、地域を越えた横のつながりをコミュニティとして築き、共通の課題や危機感に立ち向かうことができます。実際には現場課題の共有だけでなく、経営課題、採用・育成など幅広いテーマでの情報交換・共創が進んでいます。
-コミュニティにはどのような企業が参画していますか。

コミュニティのメンバーは、日本全国の地方ゼネコンで、現在は47都道府県から計117社が参画しています。全社の売上を合算すると約1兆円規模にのぼります。
建設業は特に地域性の強い業界で、同じ地域の企業ばかりが集まると競合関係が前面に出てしまい、オープンな情報交換がしづらくなる側面があります。だからこそ、あえて一つの都道府県からの参画数を絞り、全国から幅広く仲間を募ることで、地域を越えて安心して学び合える環境を重視しました。
もっとも、最初から全国展開していたわけではありません。立ち上げ時は静岡県内で志を同じくする加和太建設・木内建設・須山建設の3社で2022年にスモールスタートしました。1年間の活動を通じてコミュニティ運営の型をつくり、現場課題の共有や共創の成果も数多く得られたため、この価値を業界全体に広げたいと考え、2023年から全国拡大に踏み切りました。
全国のチャレンジングな建設会社との出会いは、半分はこれまで当社が築いてきたご縁(建設SaaSの顧客、まちづくりの視察受入れ、PFI勉強会での交流など)を起点に、もう半分は全国の建設会社を自ら調べ、理念に共感してくれる経営者を探し出しました。そのうえで、手紙や電話で一社ずつ丁寧にコンタクトを取り、直接面談を重ねるという地道な方法で参画いただきました。また、参画企業から新たな建設会社をご紹介いただけたことも、コミュニティ拡大を大きく後押しする力となりました。
-志が高く、かつ、競合しない同業他社と仲間になったということですね。企業の数と質のバランスが最適なコミュニティであると感じます。ここまで、加和太建設や近藤さんのこれまでと、建設DXコミュニティ「ON-SITE X」立ち上げの経緯について伺いました。後編では、「ON-SITE X」が建設業界に提供する価値や日頃の活動内容について詳しくお聞きします。