竹中工務店、透明ガラスを活用した耐震技術を開発 重要文化財の保護に新手法

株式会社竹中工務店は2025年8月7日、奈良県地域創造部文化財保存事務所との共同研究により、伝統木造建築の耐震性能を向上させる技術「ガラス耐震壁」を開発したと発表しました。この新技術は「ガラス耐震壁」と名付けられ、透明なガラス素材と木製フレームを組み合わせることで、歴史ある木造建築物の地震への抵抗力を大幅に高めることを可能にしています。
開発された補強システムの最大の特色は、建物の外観や内装デザインにほぼ影響を与えることなく、必要な耐震性能を付与できる点にあります。これまで重要文化財などの貴重な建造物では、景観保護の観点から補強工事に厳しい制約があり、十分な地震対策を施すことが困難な状況が続いていました。
従来の課題を解決する新発想
日本の伝統的な木造建築は、地震発生時に鉄骨構造などと比較してより大きな変形を示すことが知られています。このような特性に対応するため、これまでは土壁を用いた補強方法が一般的でした。しかし、文化財指定を受けた建造物においては、原則として外観の変更が認められていないため、必要な場所への補強材設置が制限される問題が発生していました。
新開発の技術では、建築材料として広く使用されているガラスを木製の枠で囲む構造を採用しています。地震による建物の揺れに対しては、ガラスを木材にめり込ませることで変形に追従し、同時に地震力を受け止める役割を果たします。
高性能を実現する技術的工夫
この耐震壁システムでは、木枠の変形を制御するためのタイバーという部材を設置することで、大きな地震動に対しても高い耐力を維持できる設計となっています。さらに、間口が一間(約1.8メートル)を超える大規模な開口部にも対応可能な設計が施されており、多様な建築様式に適用できます。
開発チームは実際の建物と同じ大きさの試験体を用いて性能確認実験を実施し、想定通りの効果が得られることを確認しました。この実験結果は文化庁の文化財建造物構造実験データ集にも収録されており、技術の信頼性が公的に認められています。なお、このデータは一般に公開されているため、誰でも本技術を活用することが可能です。
実際の文化財建造物での導入事例
この革新的な耐震補強技術は、すでに実際の重要文化財建造物に適用されています。奈良県橿原市にある橿原神宮境内の「重要文化財旧織田屋形大書院及び玄関」において、実用化されています。
建造物の詳細情報
・所在地:奈良県橿原市久米町934番地(橿原神宮境内)
・建築時期:天保15年(1844年)
・移築実施年:昭和42年(1967年)
・文化財指定年:昭和42年(1967年)
建築仕様
建物は一重構造の入母屋造で、屋根には桟瓦が使用されています。
規模詳細
大書院部分については以下のような仕様となっています。
・桁行:16.745メートル
・梁行:12.800メートル
・平面積:269.721平方メートル
・軒面積:402.602平方メートル
・屋根面積:496.550平方メートル
玄関部分の仕様は次の通りです。
・桁行:17.730メートル
・梁行:7.880メートル
・平面積:188.221平方メートル
・軒面積:306.067平方メートル
・屋根面積:344.130平方メートル
文化財保護の新時代への貢献
今回開発されたガラス耐震壁技術は、文化財建造物の長期保存と活用の両立を実現する画期的な手法として注目されています。透明性を活かした補強により、歴史的建造物の価値を損なうことなく、現代の安全基準に適合する耐震性能を付与することが可能になりました。
この技術の普及により、全国各地に存在する貴重な木造文化財建造物の地震に対する安全性向上が期待されており、日本の文化遺産保護において重要な役割を果たすことが見込まれています。
出典情報
株式会社竹中工務店リリース,伝統木造建築に適用可能な耐震補強技術「ガラス耐震壁」を開発し適用,https://www.takenaka.co.jp/news/2025/08/03/