事例で読み解く!建設業振興基金の「支援の今」と「未来への展望」

掲載日:

建設業ては、短期のコスト圧力と中期の競争力強化を同時に満たす打ち手が必要とされています。そのうえで、建設業振興基金を活用することが可能です。しかし、実際に活用するにあたっては、「業界がどのように動き、どんな活用事例が実際に成果を上げているのか」という点が大きなテーマだといえます。

本記事では、建設業振興基金の基本支援領域と最新の現場動向を踏まえながら、成功事例を中心に、基金活用の現実性と未来の可能性について解説します。3社の注目事例に焦点を当て、次の一手につなげる基金活用のヒントをみていきましょう。

制度概要と現状

建設業振興基金は1975年に設立された公益財団法人で、建設業の近代化や合理化を目的に活動しています。現在は金融支援や経営改善、監理技術者講習、検定・講習事業に加え、建設キャリアアップシステム(CCUS)の運営も担っています。

監理技術者講習の受講者は累計100万人を突破しました。CCUSは国土交通省と連携し、技能者の就業履歴管理や処遇改善に活用されています。また、2025年7月には設立50周年を迎え、今後も業界支援の中核を担うことが期待されています。

【2025年】最新の支援強化ポイント

建設業振興基金は2025年8月から、建設キャリアアップシステム(CCUS)の能力評価申請手数料を2026年3月末まで全額支援する制度を開始しました。技能者の登録コスト軽減やレベル評価の普及促進・処遇改善が期待されています。

また、公共工事においては、CCUS活用度に応じた加点制度やモデル工事の導入が進み、企業の受注につながる評価体制が整備されつつあります。技能の「見える化」や業務効率化、透明性向上を通じ、業界全体のデジタル化も加速している状況です。

現在は、国土交通省と連携した官民一体の導入体制が構築されている点も重要です。制度の定着と現場での活用がよりスムーズに進む環境が整えられています。

事例で見る基金の具体的な活用現場

基金の支援は制度的な仕組みにとどまらず、現場の実務改善に直結しています。ここからは、各社が基金をどう活用し実務改善につなげているのか、最新事例をみていきましょう。

CCUS活用による入退場管理効率化(福地建設)

鹿児島県霧島市の福地建設は、CCUS認定の入退場管理システム「キャリアリンク」を導入しました。準備や操作が煩雑であった従来のカードリーダー方式に比べ、スマートフォンから現場番号に電話をかけるだけで入退場が記録される仕組みを採用しています。

通話料や機器設置も不要なため、初期投資や運用負担を大幅に削減できました。さらに、建退共電子申請システムと連携した結果、1日かかっていた就労実績申請がわずか5分で完了するようになり、業務効率が劇的に向上しました。

労務安全管理の精度を高めるとともに、急な技能者入場にも柔軟に対応可能にするなど、現場DXの成功例として高く評価されています。

POファイナンス®による資金繰り改善(Tranzax)

2025年6月の勉強会では、Tranzax株式会社が提供する「POファイナンス®」の仕組みが紹介されました。受注時点の注文書や補助金交付決定を電子記録債権化し、金融機関の融資を迅速に実行できる仕組みです。

従来は手形や請求書決済に頼っていた中小企業でも、POファイナンス®の導入によって業務完了を待たずに運転資金を確保できます。そのため、資金繰りの安定化に大きく寄与するでしょう。

補助金対応型POファイナンス®では、交付決定を担保に短期融資が実現可能です。新規事業や資金調達に不安を抱える企業の支援につながっています。

基金からも、POファイナンス®が建設取引のデジタル化促進や金融円滑化に資するものとして注目されており、今後の普及拡大に向けたバックアップが期待されています。

CI-NET説明会で広がるDX化の兆し

2025年7月31日と8月1日に、名古屋と大阪でCI-NET説明会が開催されました。CI‑NET未導入企業や調達・購買、工務、情報システム部門の担当者を対象に、導入経緯や効果が具体的に紹介されました。

プログラムでは、国土交通省による電子商取引推進の狙いの説明に続き、発注側企業の導入事例やサービス会社による紹介、受発注双方の企業による意見交換が実施されました。発表内容としては、業務時間の大幅な短縮や郵送費・人件費の削減、電子化によるコンプライアンスや透明性の向上などが挙げられた模様です。

現在、CI-NETは全国で2万社以上に導入されており、普及拡大への期待が高まっています。未導入層にとって、CI-NET説明会は導入検討を後押しする実践的な契機となるでしょう。同説明会は、2025年10月9日に福岡でも開催予定です。

今後の展望と期待される支援方向性

基金による取り組みは、現場負担の軽減、デジタル技術の活用、人材育成など多岐にわたります。ここでは今後注目される支援の方向性を整理します。

技能者評価のさらなる推進

2025年8月から2026年3月まで、建設キャリアアップシステム(CCUS)による能力評価申請手数料の全額を基金が支援する制度が始まり、技能者にとって大きな負担軽減となっています。さらに登録と評価を同時に行える「ワンストップ申請」も導入され、利便性が一層高まりました。

今後は多能工基準の策定や全技能者を対象とした評価基準の整備も進められる計画で、業界全体での公平な評価環境づくりが期待されます。

バックオフィスDXとPOファイナンスの展開

基金はTranzax社のPOファイナンス®を紹介し、建設業の資金調達や取引デジタル化を後押ししています。補助金交付決定を活用した短期融資の仕組みは、中小企業の資金繰り支援とバックオフィス効率化を進める施策として定着しつつあります。

DX基盤整備と産官学連携の可能性

CI-NETは業務効率化やコスト削減、透明性向上の効果を発揮し、建設業の電子取引基盤として浸透しています。NTTデータなど民間企業もERPやクラウドサービスを通じて導入を支援しています。

一方で、制度はまだ発展途上にあり、CI-NETやPOファイナンス®を含めた総合的DX施策の統合推進体制が課題です。人材育成面でも、現行のCPD制度を補完する次世代向け教育が求められています。

まとめ

建設業振興基金の取り組みは、技能者評価の推進、バックオフィスDX支援、CI-NETによる電子取引基盤の普及など、多面的に展開されています。本記事では、最新の支援施策や導入事例を通じて、業務改善や資金調達の成果を紹介しました。

今後の建設業経営において、基金の制度活用は競争力を高める重要な要素となるでしょう。成長戦略を描く上で、基金の取り組みを積極的に取り入れることをおすすめします。