【2025年最新版】石綿(アスベスト)とは?危険性・種類・建材の見分け方・除去義務までわかりやすく解説

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Category:コラム建築
Tag:建築

著者:上野 海

石綿(アスベスト)は、高い耐熱性・断熱性・耐摩耗性などから、かつて建材や自動車部品に広く使用されてきました。しかし、発がん性などの健康リスクが明らかになり、現在は使用・製造・輸入すべてが禁止されています。

そして2025年現在、建物の解体やリフォームを行う際には、石綿の含有の有無を調査することが法的義務です。

(参考:環境省「4月1日から石綿の事前調査結果の報告制度がスタートします」

この記事では、石綿の正しい知識を身につけたい方に向けて、石綿の概要から危険性、見分け方までわかりやすく解説します。

石綿(アスベスト)とは?

石綿(せきめん、いしわた)は、天然の鉱物繊維の総称で、繊維状に裂ける性質と耐久性に優れた特徴を持っています。

英語では「アスベスト(Asbestos)」と呼ばれ、建材、断熱材、摩擦材などに長年使用されてきました。

石綿とアスベストの違いは?

「石綿」と「アスベスト」は同じものを指しており、日本語と英語の呼称の違いです。

たとえば、法律文書(労働安全衛生法、建築基準法)などには石綿と記載されており、医療・研究分野(国際論文やWHO)ではアスベスト(Asbestos)という用語が用いられるケースがよくあります。

石綿の主な種類(クリソタイル・アモサイト・クロシドライト)

石綿には6つの種類があり、特に「白石綿」「茶石綿」「青石綿」が代表的です。毒性や飛散性に、次のような違いがあります。

名称主な用途飛散性毒性
(リスク)
クリソタイル(白石綿)石綿セメント、スレート波板
アモサイト(茶石綿)吹付け材、耐火被覆材
クロシドライト(青石綿)吹付け断熱材、断熱カバー非常に高い非常に高い

なお、残りの3種類であるアンソフィライト、トレモライト、アクチノライトも同様に石綿としての役割を持ちますが、いずれも発見例は少ないのが特徴です。

なぜ危険?石綿が健康に与える影響

石綿(アスベスト)は、微細な繊維が空中に浮遊しやすく、吸い込むことで深刻な健康被害を引き起こすことから、危険だと言われています。

ここでは、具体的な病気や被害事例を紹介します。

中皮腫・肺がん・石綿肺とは?

石綿は吸引後、数十年の潜伏期間を経て中皮腫・肺がんなどの重篤な疾患を引き起こす「沈黙の殺人者」です。以下に、引き起こされやすい3つの疾患をまとめました。

病名特徴潜伏期間致死性
中皮腫肺や腹部を覆う膜(中皮)に発生するがん20~50年非常に高い
肺がん肺の組織に発生。喫煙との相乗効果で悪化15~40年高い
石綿肺長期間の曝露により肺が線維化(硬くなる)10年以上慢性進行性・治癒困難

参考:環境再生保全機構「石綿(アスベスト)関連疾患」

石綿は一度吸い込むと分解・排出されず半永久的に肺に残るため、潜伏期間が非常に長く、発症時には手遅れになるケースも多いです。

被害事例(国内・世界の代表例)

石綿の被害は国内外で多くの死者・補償問題を生み出し「公害」としても社会問題化しています。

特に1970〜1990年代にかけて、建設・造船・自動車関連の労働者が大量に被曝していたことが明らかとなり、訴訟や集団補償の対象になっています。以下に、過去の一例を整理しました。

  • 2022年6月7日
    原告190人(被害者数137人)がアスベスト建材メーカーに対し、全国10地裁(札幌、仙台、さいたま、東京、横浜、京都、大阪、岡山、高松、福岡)において一斉に提訴
  • 2021年5月17日
    おおむね昭和50年〜平成16年までの期間に主に屋内で建設作業に従事し、アスベストによる健康被害をこうむった方に対し、国と建材メーカーの賠償責任を認めた

(参考:NPO法人 アスベストセンター公式サイト

また、全国労働安全衛生センターで公開されている情報によると、2025年現在、海外でも同様に訴訟などアスベスト禁止をめぐる動きが続いています。

いつまで使われていた?石綿使用の歴史

石綿(アスベスト)は、20世紀後半に建築業界で広く使用された素材でした。(日本の場合)

耐火・断熱性能の高さから、公共施設から住宅まであらゆる建築物に使われていましたが、健康被害の深刻さが明らかになるにつれて規制が段階的に強化されました。

ここでは、日本における石綿使用の歴史と、現在の規制内容を時系列でわかりやすく解説します。

日本における規制の流れ(年表付き)

石綿は2006年に全面禁止されるまで、段階的に規制が強化されてきました。

年度規制内容・動き
1975年「特定化学物質等障害予防規則」の改正により、アスベスト含有率5%以上の吹付け材の使用が原則禁止に
1986年ILO条約採択により、クロシドライトの使用禁止、クリソタイルも管理対象に
1995年アモサイト・クロシドライトの製造・輸入・使用が全面禁止に。また、含有率1%以上の吹付け作業も禁止。耐火建築物での届出義務開始
2004年含有率1%以上の石綿含有建材(吹付け以外も含む)の製造・使用が原則禁止に 
2006年9月労働安全衛生法改正により、石綿の製造・輸入・使用が全面禁止に(含有率0.1%以上も対象)
2020–2021年石綿障害予防規則の改正で、「除去工事中の記録保存」「隔離措置」「除じん(集じん)電動工具の使用」など作業基準が強化され、写真・記録の3年保存義務などが導入された
2021年4月大気汚染防止法・石綿障害予防規則の改正により、解体・改修の事前調査が義務化された
2022年4月1日事前調査の結果報告が義務化され、石綿事前調査結果報告システムによる電子申請が開始された
2023年10月1日有資格者(建築物石綿含有建材調査者)による事前調査が義務化された

かつては年間30万トン以上の石綿が輸入され、波板スレートや吹付け材として日常的に使われていました。しかし、健康被害の報告が相次いだことで、政府は使用制限から全面禁止へと進みました。

現在の規制内容(禁止対象・除外規定)

日本では現在、石綿の製造・使用・輸入はすべて禁止されており、含有建材の使用も認められていません。

発がん性が国際的に認定されたことを受け、例外のない「全面禁止」の措置が取られています。さらに、すでに石綿が使用されている建物については、「調査・届出・適正除去」が義務付けられています。

なお、住宅の解体やリフォームをする際には、建築物石綿含有建材調査者という資格が必要です。詳しくは以下の記事をご確認ください▼

どんな建材に使われていた?石綿含有建材の見分け方

石綿(アスベスト)は、「断熱・耐火・防音」などの性能を持つ高機能建材として、建物のあらゆる部位に使われていました。

ここでは、石綿含有建材の分類(レベル1〜3)と、どのような場所に使われているかをわかりやすく解説します。

レベル1〜3建材の分類

石綿建材は「飛散しやすさ」によって、レベル1〜3に分類されています。除去方法や規制の厳しさも異なります。

レベル飛散性主な使用例規制の厳しさ
レベル1(高)吹付け材(最も飛散しやすい)天井・柱・梁の吹付けアスベスト非常に厳重(隔離・湿潤・負圧等)
レベル2(中)耐火被覆材・保温材・断熱材(接着されているが剥がれる)ボイラー周り、配管保温材厳重管理(手袋・養生必須)
レベル3(低)成形板・スレート(固形化されている)屋根材、外壁材、ケイカル板飛散リスクは低いが注意必要

石綿は、粉じんとして空気中に浮遊することで健康被害を引き起こすため、飛散性が高い建材ほど、厳重な管理・除去対策が必要です。

なお、すべてのレベルにおいて、解体・撤去時には事前調査+専門業者による除去が義務となります。

石綿含有の可能性がある場所(建物部位別一覧)

石綿は、建物の「天井・壁・床・屋根」など、目に見えない場所にも使われている可能性があります。

建物部位石綿使用の例建材レベル
天井裏吹付けアスベストレベル1
配管まわり保温材・断熱材レベル2
外壁・内壁スレート板・ケイ酸カルシウム板レベル3
屋根材波型スレート、屋根パネルレベル3
床下ビニル床タイル(旧タイプ)レベル3または不明
ボイラー室耐火断熱材、配管被覆材レベル2
電気設備まわり絶縁材、パッキン、ガスケットレベル3または不明

一見するとわからない建材でも、古い建物では石綿が混入された製品(成形板・保温材など)が多く使われていました。調査では、設計図書や目視だけでは判断できないケースもあり、試料採取による分析が必要になるケースもあります。

また、石綿(アスベスト)の事前調査をする際には、以下のガイドをご参考ください▼

石綿(アスベスト)に関するよくある質問【FAQ】

石綿含有かどうか自分で判断できますか?

外観だけでは石綿の有無を判断することは困難です。見た目が似ている建材でも成分が異なるため、専門資格を持つ調査者による分析が必要です。自己判断で工事を行うと法令違反になるおそれがあります。

石綿除去にかかる費用は?

除去費用は、規模や施工条件により異なりますが、一般住宅で30万~100万円程度が相場です。養生や飛散防止措置、廃棄物処理などに費用がかかります。工事前に複数業者から見積もりを取るのが安心です。

調査だけでも義務ですか?

石綿の有無に関わらず、一定規模以上の建築物を解体・改修する際には事前調査の実施と報告が義務付けられています。調査を怠ると施工主・業者ともに罰則対象になるため、必ず実施が必要です。

石綿が見つかったらすぐに除去しなければならない?

必ずしもすぐ除去する必要はありません。ただし、解体や改修などで飛散の恐れがある場合は、法令に基づく適切な除去または囲い込み・封じ込めが求められます。状況に応じて専門業者の判断を仰ぎましょう。

DIYで石綿を壊したら罰則がありますか?

2022年4月以降、無届けで石綿含有の可能性がある建材をDIYで壊すと、建築物石綿含有建材調査者による調査義務違反や除去基準違反として、最大100万円以下の罰金などの罰則が科されることがあります。

まとめ

石綿(アスベスト)は深刻な健康被害を引き起こすため、解体・改修時の事前調査や報告は法令で義務付けられています。

特に、2022年以降は有資格者による調査が必要な場合もあり、自己判断やDIYでは罰則の対象となることも少なくありません。費用や手間がかかっても、早めの対応が重要です。