大成建設、床振動抑制システムT-Silent TMD Floor開発、導入コスト半減

大成建設株式会社(社長:相川善郎)は7月7日、オフィスビルなどの床振動問題を解決する新たな床振動抑制システム「T-Silent® TMD Floor」を開発したと発表しました。同システムは、独自開発の薄型制振装置と人工知能による最適化技術を融合させたもので、従来手法と比較して導入費用を最大50%まで圧縮できることが特徴です。
床振動問題の現状と課題
鉄骨造建物では、歩行などによる床振動が執務空間の快適性や作業効率を妨げる要因となる場合があります。この振動は執務環境の快適性を著しく損なうだけでなく、作業効率の低下を招く要因としても指摘されています。
これまでの対策では、OAフロアと床スラブの間隙にTMD(チューンド・マス・ダンパー)と呼ばれる制振装置を多数設置する方法が主流でした。しかし、200~300平方メートルの床面積に対して10~20台程度の装置が必要となり、1台当たりの高額な費用に加え、設置・保守管理の負担が大きな障壁となっていました。
特に既存建物への後付け設置では、床下の限られた空間や家具類の移動といった制約により、導入が困難なケースが多く見られました。
新開発システムの技術的特徴
新たに開発されたTMDは、直径420mmの円形錘を3本の板ばねで支持する革新的な構造を採用しています。この簡素化された設計により、従来品に比べて製造コストを約20%削減することに成功しました。
また、錘の重量を従来より増加させることで、少ない設置台数でも十分な振動抑制効果を発揮できるよう改良されています。
コンパクト設計による施工性向上
新型TMDは標準的なOAフロアパネル(500mm×500mm)1枚分のスペースに収まる寸法で設計されており、既存オフィスでも家具や什器の移動を最小限に抑えた設置が可能です。
薄型設計により、OAフロアと床スラブ間の高さが制限された環境でも柔軟な対応ができるため、幅広い建物への適用が期待されます。
AI技術による最適配置設計
同社が2022年に開発した「T-Optimus TMD」は、進化計算という人工知能技術を活用した解析システムです。この技術により、TMDの重量・ばね特性・配置位置を総合的に最適化し、最小限の装置数で最大の効果を実現します。
実際の建物での検証では、従来手法で10台のTMDが必要だった案件において、本システムの適用により6台で同等の振動抑制効果が得られることが確認されました。
システムの主要な利点
本システムの導入により、以下のような効果が期待できます。
・製造コストの大幅削減(従来比約20%減)
・設置工期の短縮化
・既存建物への容易な後付け設置
・保守管理作業の簡素化
・床振動の効果的な抑制
進化計算技術の活用
進化計算は生物の進化過程を模倣したアルゴリズムで、複雑な工学的問題に対して人間の思考では到達困難な最適解を効率的に導き出すことができます。この技術により、パラメータの変形・合成・選択を自動化し、TMD設置の最適化を実現しています。
今後の展開
大成建設は、新築・既存建物を問わず、高性能かつ低コストで容易に設置できる床振動対策として本システムの積極的な提案を行い、建物の居住性向上に貢献していく方針を示しています。
同システムは「生産プロセスのDX」の一環として位置づけられており、建設業界のデジタル変革を推進する重要な技術として注目されています。
出典情報
大成建設株式会社リリース,新型制振装置とAI解析技術を組み合わせた床振動抑制システム「T-Silent® TMD Floor」を開発-薄型円形TMD装置の仕様・配置を最適化し、導入コストを最大50%削減可能-,https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2025/250707_10537.html