Greenfile.workで建設業界をシンプルに、透明に。| シェルフィーが目指す「活用率100%」への挑戦について


2025年、日本の建設業界は変革の岐路に立っている。労働力不足、過重労働、複雑な書類業務——長年積み重なった課題に対し、デジタル技術による解決策が求められている。そんな中、シェルフィー株式会社は、建設現場の安全書類管理を効率化するサービス「Greenfile.work」を武器に、業界の透明性と生産性向上へのチャレンジを続けている。同社社長の呂俊輝(ロイ・シュンキ)氏は、単なる売上拡大ではなく、「活用率100%」を掲げ、ユーザーの声に寄り添いながらDXの本質を追求している。本記事では、呂氏にインタビューを行い、シェルフィーのビジョンと挑戦の軌跡を追う。
目次
シェルフィーの創業 坂本龍馬にインスパイアされた志
呂俊輝氏がシェルフィーを創業したのは、建設業界に新たな風を吹き込みたいという強い志からだった。「幕末の大ファンで、特に坂本龍馬に憧れていました。ただ、まだ高知には行ったことがないんですけど」と笑う。龍馬の名を息子に与えるほど、その精神に共鳴しているという。「自分たちが立ち上げるサービスが、世の中のためになることを第一に考える。それが私たちの原点です」。この思想は、シェルフィーの、呂社長という人物の根底を支えるものだ。
同社は2014年に設立され、最初は内装業界向けのマッチング事業を展開していた。しかし、2019年に安全書類管理に特化した「Greenfile.work」をリリースし、建設業界のDXに本格的に参入。2025年5月時点で、登録企業数は25万社を超え、地方や中小規模のゼネコンを中心に支持を集めている。「良くも悪くも、予想通りの成長です」と意味深な評価を下す。その裏には怜悧な市場分析とユーザーニーズへの透徹した理解があるようだ。
Greenfile.work 安全書類のDXをシンプルに
Greenfile.workは、建設現場で必要とされる安全書類の作成・管理・共有を効率化するクラウドサービスだ。建設業界では、作業員の資格や社会保険の加入状況、作業内容などを詳細に記録した書類が法的に義務付けられている。しかし、これらの書類作成は手間がかかり、現場の負担となってきた。「書類業務は残業や過重労働の大きな原因の一つ。Greenfile.workは、それをシンプルに、透明にすることを目指しています」と説明する。
同サービスの強みは、使いやすさと実用性に徹底的にこだわった設計だ。既存の大手向けな他社ツールが複雑で高機能すぎるのに対し、Greenfile.workは中小規模のゼネコンや地方の現場が求める「シンプルさ」を重視。呂氏は「全国のゼネコンがスーパーゼネコンと同じニーズを持っているわけではない。中小や地方の現場では、多機能さやカスタマイズ性よりも、直感的な操作性が求められる」と語る。この仮説は的中し、地方のゼネコンや中小企業からの支持を獲得。導入企業数の急増につながった。
特に注目すべきは、Greenfile.workの「不備チェック機能」だ。書類に記載された情報の正確性を自動で検証し、不備があれば通知するこの機能は、目視確認の手間を大幅に削減する。「作業員の生年月日や資格、社会保険の加入状況など、細かい項目を一つ一つ確認するのは大変。不備チェック機能は、現場の負担を軽減し、正確な書類作成を支援します」と胸を張る。2023年にはチェック項目を200から500に増やし、さらなる精度向上を実現。来年には新たなキラー機能のリリースも予定しており、他社との差別化を一層強化する計画だ。
建設キャリアアップシステム(CCUS)との連携×地方のDXを加速
シェルフィーの取り組みは、建設業界全体のDXを推進する動きとも密接に結びついている。特に、国土交通省が推進する建設キャリアアップシステム(CCUS)との連携は、同社の地方展開における重要な要素だ。CCUSは、建設現場の作業員の技能や就労履歴を一元管理するシステムで、業界の透明性向上と労働環境改善を目指している。しかし、地方の現場では導入が進まず、課題となっている。
「CCUSの拡大は、地方でのDXがカギです。Greenfile.workは、CCUSと連携することで、地方の現場がシステムをスムーズに導入できるように支援しています」と語る。たとえば、Greenfile.workの不備チェック機能は、CCUSに必要な現場情報の正確な登録をサポート。現場作業員情報の登録や更新も効率化し、地方のゼネコンがCCUSを活用しやすくする。
活用率100%へのこだわり 売上よりもユーザーの成功を
シェルフィーの最も特徴的な点は、「活用率」を最優先の指標としていることだ。一般的なSaaS企業が売上や導入数を追い求めるのに対し、呂氏は「導入しただけでは意味がない。実際に使われ、現場の効率化に貢献してこそ価値がある」と強調する。この哲学は、建設業界のDXにおける本質的な課題を浮き彫りにする。
「建設業界のDXは、導入がゴールになってしまっているケースが多い。新しいツールを導入しても、現場で使われていなければ意味がありません」と指摘する。実際、Greenfile.workを導入した企業の中でも、従来のExcelでの書類作成を続ける現場が存在する。「活用率が50%や60%ではダメ。100%を目指す。それが私たちのこだわりです」。
この姿勢が評価され、シェルフィーは業界内外から注目を集めている。2024年、国土交通省の職員が同社を訪れ、ヒアリングを行った。「地方の中小ゼネコンでのDX推進が、次の建設業界の課題だと考えている。その成功事例として、シェルフィーの取り組みから学びたい」と職員は語ったと、呂氏は言う。
25万社を超える導入実績と、地方での高い活用率が、シェルフィーを「成功している会社」として省庁の目にとまったのだ。「私たちは何も隠しません。活用率を追求する姿勢やユーザーに寄り添うアプローチを率直に共有しました」と振り返る。この訪問は、シェルフィーの取り組みが、業界全体のDXを牽引する可能性を示す出来事だった。
シェルフィーは、ユーザーとの密なコミュニケーションを重視している。たとえば、東京や福岡で開催されるユーザー交流会は、活用率向上のための重要な場だ。「DXを推進する現場の担当者は、社内で孤立しがちな存在です。彼らが交流し、成功事例を共有することで、モチベーションを高め、活用を広げられる」と語る。交流会では、活用率の高い企業の事例を紹介し、参加者同士のディスカッションを促進。こうした「ウェット」なアプローチが、シェルフィーの強みとなっている。
人とのつながりを軸に シェルフィーの本質
シェルフィーのアプローチは、SaaSベンチャーとしては異例ともいえる「人間中心」の姿勢に特徴がある。SaaS企業なのにも関わらず、ユーザーをはじめ人とのつながりを大事にしているのだ。この点、呂社長は「それはわが社の本質に関わる部分です。テクノロジーは手段に過ぎません。結局、建設業界のDXは、現場で働く人々の課題を解決し、彼らの働きやすさを実現するものでなければならないんです」とまっすぐに答える。
この考えは、シェルフィーの企業文化の根幹をなす。呂氏は、売上やスケールよりも、ユーザーとの信頼関係を優先する。「私たちは、ユーザーが抱える課題に寄り添い、彼らの声をサービスに反映させることで、初めて価値が生まれると信じています。交流会や直接の対話を通じて、ユーザーの『生の声』を聞くのは、そのためです」と語る。
この姿勢は、単なるビジネス戦略を超え、呂氏の人生哲学そのものだと言える。「人とのつながりこそが、シェルフィーのサービスを進化させ、建設業界を変える原動力」と彼は強調する。この「ウェット」なアプローチが、25万社以上のユーザーに支持される理由であり、シェルフィーが業界で独自の地位を築く礎となっている。

建設業界のDX課題 短期的視点からの脱却
呂氏は、建設業界のDXが進まない背景に、提供側と利用側の双方の「短期的視点」があると分析する。「サービス提供側は売上を優先し、利用側は導入自体を目的化してしまう。この構造が、現場の真の効率化を妨げています」。多くのコンテック企業が、機能を増やし、セット販売で導入数を競う中、実際の使い勝手や現場への貢献度は二の次になりがちだ。
「導入数を増やすために、営業やマーケティングに投資するのは簡単。でも、それでは本質的な価値は生まれない」と言う。シェルフィーは、こうした業界の潮流に逆らい、開発リソースのほとんどを活用率向上に注ぐ。
AIと未来 提供価値を第一に
AIの活用についても、呂氏は慎重かつ現実的なスタンスを取る。「AIは手段であって、目的ではありません。もちろん、提供価値が明確で、ユーザーデータが十分にあれば、AIは強力なツールになりますが」と洞察する。「たとえば、GoogleやMetaのような企業がAIで成功しているのは、膨大なユーザーデータと魅力的なサービス基盤があるからですが、データを集めるためにAIを導入するのではなく、価値あるサービスを提供し、ユーザーの信頼を得た先にAIがあるべきなんです」と切り込む。
シェルフィーはこれまで、Greenfile.work以外のプロダクト開発には目もくれず、ひたすらGreenfile.workを磨き続けてきた。今後もそれは続く。シェルフィーは来年春先をメドとして、新たな機能を追加したGreenfile.workのバージョンアップを予定している。
しかし、今のシェルフィーにとっては、まずはGreenfile.workの基盤を固めることが最優先だ。「安全書類のDXを100%実現できたら、次のプロダクトを考える。それが私たちの順番です」とチカラを込める。
建設業界のコンビニになる
呂氏の言葉には、建設業界を変えたいという熱意と、ユーザーへの深い共感が込められている。「DXは、現場の負担を増やすものではなく、働きやすさを実現するものでなければなりません」。この信念のもと、シェルフィーは地方の中小ゼネコンに寄り添い、シンプルで実用的なDXを推進している。
「私たちは、コンビニのように信頼されるサービス群の提供を目指しています。コンビニは、たとえば、おにぎりやコーヒーなど一つずつ丁寧に磨き上げ、長い時間かけて信頼感を築いてきたでしょ。私たちも、Greenfile.workをおにぎりのように徹底的に磨き、ユーザーが『これを使えば必ず効率化できる』と信頼してもらえるサービスにしたいんです。シェルフィーのサービスを利用したら、必ずおいしい(良い)と感じてもらいたいですよ」
この言葉を展開すると、シェルフィーがGreenfile.workを通じて提供するものは、突き詰めれば信頼感そのものだと言っても、あながち間違いではないかもしれない。