大成建設が次世代多機能保護具「スーパーSCヘルメット」開発、トンネル現場の作業環境を一新

大成建設株式会社(社長:相川善郎)が、山岳トンネル建設現場の作業員向けに開発した次世代型保護具「スーパーSCヘルメット」が注目を集めています。この新製品は「スーパーSCヘルメット(Sustainable Performance and Smart Communication Helmetの略)」として命名され、デジタル変革(DX)に対応した多機能性を持つ革新的な装備です。
従来の複数の保護具が持つ機能を一つにまとめることで、トンネル工事現場での作業員の安全確保と作業効率の向上を同時に実現しています。特に、粉塵や騒音、高湿度といった過酷な環境下での作業において、その効果が期待されています。
目次
山岳トンネル工事現場が抱える深刻な問題
山岳トンネルの建設現場では、掘削作業や重機の稼働により大量の粉塵と騒音が発生します。このような環境では、作業員がじん肺や騒音性難聴といった職業病にかかるリスクが高まります。そのため、現場では以下のような多様な保護具を装着しています。
・落石などから頭部を守るヘルメット
・背中を保護するバックプロテクタ
・粉塵を防ぐ電動ファン付き呼吸用保護具
・騒音から聴覚を守る防音イヤーマフ
しかし、これらの装備を同時に着用することで、作業員には様々な負担が生じていました。
従来の保護具が抱える課題
■身体的負担の増加
複数の保護具を同時に装着することで、作業員の体への負担が大幅に増加します。特に長時間の作業では、ヘルメット内部の蒸れによって快適性が著しく損なわれ、熱中症のリスクも高まります。
■作業効率の低下
多数の装備を身に着けることで動きが制限され、作業効率が大幅に低下します。また、各装備のケーブル類が絡まりやすく、作業の妨げになることも少なくありません。
■安全性の課題
暗く狭いトンネル内では多くの重機車両が稼働しており、作業員との接触事故の防止が重要な課題となっています。従来の装備では、こうした危険を事前に察知することが困難でした。
スーパーSCヘルメットの革新的な5つの機能
1. 個別空調システムによる健康保護
背部に装着するフィルター付き電動ファンから、ヘルメット内部に清浄な空気を送り込むシステムです。この機能により、常に新鮮な空気がヘルメット内を循環し、粉塵の侵入を防ぎながら内部の蒸れを大幅に軽減します。これによって、じん肺や熱中症などの健康被害を予防し、作業員に快適な作業環境を提供します。
2. 後方視認システムによる事故防止
ヘルメット後方に取り付けられたカメラが捉えた映像や各種の視覚情報を、ヘルメット内の額部に設置された小型ディスプレイ〈ヘッドアップディスプレイ(HUD)〉に表示します。この機能により、作業員は後方から接近する重機車両などを素早く認識でき、激突事故の防止に大きく貢献します。
3. 騒音環境下でのコミュニケーション改善
外部の騒音レベルに応じてヘルメット内部での音の聞こえ方を自動調整する無線通信機能付きイヤーマフを搭載しています。これにより、騒音の激しい環境下でも作業員同士の会話が明瞭に行えるようになり、安全性の向上と作業効率の改善を同時に実現します。
4. 統合設計による作業性の大幅向上
複数の保護具の機能を一つにまとめることで、個別装着の必要がなくなります。また、各装備のケーブル類も統合されるため、動きやすさが大幅に改善されます。さらに、各機能の電源バッテリーを統合することで、多機能でありながら重量を1.5kg以下に抑えた軽量化を実現しています。
5. 将来性を見据えたDX機能の拡張性
ヘルメットに搭載された小型演算処理装置と無線通信機能により、ヘッドアップディスプレイにカメラ映像以外の様々な情報を表示することが可能です。将来的には以下のような機能の拡張にも対応が可能です。
・作業員の体温や脈拍などの健康状態リアルタイム監視
・トンネル内の温湿度、ガス・粉じん濃度等の環境情報表示
・現在の作業進行状況の可視化
これらの機能により、坑内作業時の安全性、快適性、作業性の更なる向上が期待されています。
建設業界への波及効果
このスーパーSCヘルメットの開発は、建設業界における新たな安全対策の一例となることが期待されます。従来の「個別の保護具を複数装着する」という考え方から、「統合された多機能システム」への転換を示しており、今後の建設現場における作業員の安全確保と作業効率向上のモデルケースとなることが予想されます。
また、DX対応機能の搭載により、建設現場のデジタル化推進にも大きく貢献することが期待されています。作業員の健康状態や作業環境のリアルタイム監視により、より科学的で効率的な現場管理が可能になります。
今後の展開と普及への取り組み
大成建設では、このスーパーSCヘルメットの現場での実用化を積極的に推進していく方針です。実際の現場での使用を通じて効果を検証し、継続的な機能改善を行いながら、山岳トンネル工事を安全かつ快適に効率よく進めるための標準装備として広く普及させることを目指しています。
この技術革新により、トンネル建設現場での作業員の労働環境が大幅に改善され、建設業界全体の安全性向上と生産性向上に寄与することが期待されています。また、他の建設現場への応用も検討されており、建設業界における新たな安全管理の標準となる可能性も秘めています。
出典情報
大成建設株式会社リリース,DX対応型次世代多機能保護具「スーパーSCヘルメット」を開発-複数保護具の機能集約によりトンネル坑内作業の安全性・快適性・作業性を向上-,https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2025/250625_10536.html