【2025年版】建築物石綿含有建材調査者とは?資格・試験・合格率を徹底解説

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Category:コラム建築

著者:上野 海

2023年10月以降、労働安全衛生法施行令の改正により、建築物に使用された石綿(アスベスト)建材の有無を適切に調査・記録することが、解体・改修工事を行う際の義務となりました。その中心を担う専門資格が「建築物石綿含有建材調査者」です。

この記事では、資格の種類(一般・一戸建て等・特定)や取得フロー、合格率・試験内容・勉強法、さらには現場での実務活用まで、2025年最新版の情報でわかりやすく解説します。

建築物石綿含有建材調査者とは?

建築物石綿含有建材調査者とは、建物に使われた石綿(アスベスト)の有無を法令にもとづいて調査・報告できる専門資格です。

2023年の法改正で、有資格者による事前調査が義務化されたことから、今や建設業・不動産業・設計業界において必須とも言える資格になっています。

令和5年10月1日から解体工事等の事前調査は「建築物石綿含有建材調査者」が行う必要があります

引用:厚生労働省公式サイト

特に、石綿含有建材の事前調査は、解体・改修工事を始める前に必ず実施しなければなりません。無資格者が行った調査では法令違反になるケースもあるため注意が必要です。

受験料49,500円(税込・テキスト込み)
※一般の場合
再受講5,500円~(税込)
※一般の場合

参考:日本環境衛生センター「建築物石綿含有建材調査者講習2025年」

資格の種類(一般・一戸建て等・特定)

建築物石綿含有建材調査者の資格は、誰でも取得できるわけではなく、講習受講・試験合格が必要です。調査対象の建物規模に応じて、次の3種類の資格区分が存在します。

資格名対象となる建物主な特徴
一般調査者一戸建て住宅や小規模店舗など・比較的簡易な講習内容で取得できる
・受講者が多い
一戸建て等調査者民間住宅(DIYや簡易改修向け)・区分が新設された特例的な資格である
・対象が限定的
特定建築物調査者ビル・共同住宅・公共施設などの中〜大規模建築物・実地演習を含む講習である
・もっとも包括的で業務範囲が広い

実務上、特定建築物調査者を取得しておけば、ほかの2区分の範囲もすべてカバーできるため、将来的な活用を考える企業・技術者に選ばれています。

法改正の背景と義務化された理由

資格取得の義務化は、石綿(アスベスト)被害の再発防止と調査の精度向上を目的として、国が法改正を行ったことが背景にあります。

2022年の法改正を経て、2023年10月から労働安全衛生法施行令・石綿障害予防規則が改定され、以下の条件にあてはまる工事では、国の定めた講習修了者である調査者が事前調査を行うことが義務となりました。

  • 延床面積80㎡以上の解体工事
  • 改修対象面積20㎡以上の工事
  • 設備の取り外しを伴う工事

参考:厚生労働省・石綿総合情報ポータルサイト「工事の元請業者のみなさまへ」

厚生労働省によると、日本国内では過去に石綿が約3,000種以上の建材に使用されており、老朽化した建築物を改修・解体する際に飛散するリスクが社会問題となってきたことから、ほとんどすべての解体・改修業務で必要になる資格です。

より詳しく調査の重要性を知りたい方は、以下の記事もチェックしてみてください。

資格取得までの流れ(講習日程)

建築物石綿含有建材調査者の資格は、国家試験ではなく「講習修了」によって取得するものです。

なお、講習は国の指定を受けた団体が実施しており、指定講習の受講と修了考査への合格が欠かせません。初めて受講する人でも迷わないように、取得までの具体的な流れを以下にまとめました。

ステップ内容詳細
Step1受講資格を確認・無資格、未経験者からも受験できる・特定建築物調査者は建築士・施工管理技士等の資格や経験が必要・講習区分により条件が異なる
Step2講習を申し込む・オンラインまたは対面講習を選択
・東京、大阪など主要都市で随時開催
・人気の会場は早期満席になる
Step3講習を受講する・1〜2日間の講義+演習(特定の場合)
・石綿の基礎知識、調査手順、法令内容などを学ぶ
Step4修了考査に合格する・講習の最後に行われるテスト
・写真判別や調査方法の知識を問う
・合格率は約70〜80%。
Step5修了証を受け取る・合格者には講習修了証が交付され、正式に有資格者として調査業務に従事可能となる

参考:厚生労働省「建築物石綿含有建材調査者」

なお、当講習は、2024年からオンライン講習の対応が拡大されました。しかし、修了考査は原則として会場での実施が必要です。完全な在宅完結ではない点に注意しましょう。

講習内容(科目・時間配分)

建築物石綿含有建材調査者の講習は、知識のインプットと修了考査をセットにした短期集中型の構成です。以下に、区分ごとの講習内容を整理しました。

資格区分主な講習内容所要時間特徴
一般調査者・石綿に関する法令
・含有建材の基礎知識
・調査手順
・報告書の作成方法
約6〜7時間
(1日)
・初心者にも理解しやすい内容
・比較的軽量な講習
一戸建て等調査者・一般講習の内容を簡略化
・対象建物が限定され、法令や調査内容も範囲が狭い
約5時間・DIY施工などを対象にした限定用途
・補助的な資格
特定建築物調査者・一般講習+演習付き
・石綿建材の実物判定
・複雑な報告書作成演習など
約12時間
(2日間)
・実務を想定した演習付きで最も実践的
・公共施設、ビルなどが対象

資格区分(一般・一戸建て等・特定)によって講習内容や時間配分が一部異なりますが、いずれも「石綿建材の正確な判別と、調査の適切な実施」を目的としています。

なお、公共施設・共同住宅など中規模以上の建物の調査を担当する際には、原則として「特定建築物調査者」資格が必要です。(解体業者やリフォーム業者など)

試験の合格率・難易度・評価ポイント

建築物石綿含有建材調査者の試験(修了考査)の形式は「筆記式」であり、選択肢・記述式を組み合わせて出題されます。

受講する講習の区分(一般・特定)によって出題の範囲や深さが異なります。

区分試験内容実施形式難易度の傾向
一般調査者含有建材の判別、法令知識、報告書記述などの基礎筆記:30〜40問程度(選択式が中心)比較的易しいが不合格も一定数あり
特定建築物調査者上記に加えて、実地に近い調査手順や応用的設問あり筆記:40〜50問+記述(配点大)合格率はやや低め、事前対策が重要

なお、過去の事例として、日本環境衛生センターの修了考査結果は次のとおりでした。

  • 2020年|71.8%
  • 2019年|75.3%
  • 2018年|68.1%

参考:日本環境衛生センター「修了考査結果データ」

得点率6割以上が合格基準であり、おおよそ7割の合格率であるため、講義をしっかり受講すれば十分に対応可能な水準です。

実務で求められるスキルと活かし方

建築物石綿含有建材調査者の資格を取得した後は、実際の「現場で使えるスキル」として活かしていくことが重要です。

ここでは、現地調査や報告書作成で必要となる具体的なスキルと、資格の活用先として多い業種・職種の例を紹介します。

現地調査・報告書作成に必要な実務知識

建築物石綿含有建材調査者として求められるのは「見て判断できる」「記録して報告できる」スキルです。

以下のような業務をひとりで、あるいはチームで実施できることが実務で期待されます。

現地調査で求められるスキル

  • 図面や建物構造を読み解く知識(建築図面の基礎理解)
  • 目視・計測による調査(壁・天井・床材の部位確認)
  • 含有が疑われる建材の写真撮影・記録
  • サンプリングの要否判断(必要に応じて採取・分析依頼)

報告書作成に必要なスキル

  • 法令様式に沿った報告書フォーマットの理解
  • 石綿含有建材の判別結果の記録方法
  • 建材分類、劣化状況の評価
  • 写真添付と位置図の作成(調査対象の建物部位と対応させる)

また以下の記事では、石綿事前調査の流れや判断基準について解説しています。

講習後の活用例(建設会社・コンサル・行政など)

建築物石綿含有建材調査者の資格は、次のような業種で「即戦力」として活用されています。

業種・職種活用シーン
建設会社(元請・下請)解体前の事前調査・報告書提出、法定届出の準備
設計事務所リフォーム設計に伴う石綿調査の内製化
不動産会社中古物件売買前の調査対応、説明責任への備え
コンサル・調査専門会社外注業務として複数物件を受託・調査
行政・自治体公共施設の改修・除却時の法令対応の一環として有資格職員を配置

建築・改修に関わるすべての従業員が、石綿リスクへの対応責任を負うようになったことから、上記の業種の従事者は早めの取得を目指す必要があります。

建築物石綿含有建材調査者についてよくある質問【FAQ】

建築物石綿含有建材調査者は国家資格ですか?

国家資格ではなく「講習修了型の民間認定資格」です。ただし、労働安全衛生法などの関係法令により「有資格者でなければ調査ができない」と義務付けられているため、実質的には法的効力をもつ必須資格となっています。

一般と特定、どちらを選ぶべき?

幅広い建物を調査したいなら「特定建築物調査者」を選ぶのが無難です。一般は、一戸建てや小規模物件が中心で業務範囲が限定的です。特定を取得すれば、一般区分の建物もすべてカバーできるため、仕事の幅や信頼性を重視する企業や個人には特定が推奨されます。

オンライン講習はいつ受けられる?大阪開催はある?

オンライン講習は通年で開催されていますが、修了試験は原則として会場での受験が必要です。eラーニング形式で自宅学習ができるものの、受験日と会場は講習機関のスケジュールに準拠する必要があります。なお、大阪では毎月のように会場開催があり、特に人気のため早めの予約がおすすめです。

まとめ

建築物石綿含有建材調査者は、解体・改修工事を行ううえで法的に不可欠な「実務資格」です。

2023年10月の法改正により、有資格者による調査が義務化され、今後ますます重要性が高まることが確実ですので、この機会に取得を目指してみてはいかがでしょうか。