【2025年版】オーバーハング建築とは?メリット・デメリット・構造や費用をプロが徹底解説

住宅のデザインや空間活用の自由度が高まるなか、近年注目を集めているのが「オーバーハング建築」です。しかし「雨仕舞が悪くて後悔した」「施工費が高くなった」など、設計・施工上の注意点も多く、知識不足のまま採用すると後悔するケースも少なくありません。

そこでこの記事では、オーバーハング建築の概要を説明したのち、採用するメリット・デメリット、費用相場まで建設のプロ視点から徹底解説します。

オーバーハング建築とは?

出典:建築研究所「CLTパネル工法実験棟と枠組壁工法6階建て実験棟の建設を通した

施工検証と技術データの収集について」

オーバーハング建築とは、下階より上階が外側に張り出した建物構造のことです。

上画像のように、2階部分が1階より前方・側方に張り出している住宅や、庇、バルコニーが壁面から外に飛び出しているデザインが該当します。

限られた敷地条件でも有効に空間を拡張できるのが魅力であり、建物にかせられる容積率の調整として役立ちます。

現代建築にオーバーハングが多い理由

近年の都市型住宅や狭小地の戸建てでは、オーバーハング建築が多用される傾向にあります。

その理由は、次のように限られた敷地のなかでも居住空間を最大限に確保しながら、意匠性や法的有利性も同時に得られるためです。

理由内容
敷地の制約狭小・変形地に対して床面積を最大化したいニーズがある
建ぺい率制限1階をセットバックし、張り出すことで延床面積を確保できる(法令次第)
雨避け・庇代わり外部に庇や屋根を設ける代わりに2階を張り出して機能を果たす
デザイン重視ファサード(外観)で個性を出す設計手法として採用される
木造技術の向上プレカット・接合部補強で梁張り出しが実現しやすくなった

たとえば住宅密集地に家を建てるとき、1階部分をコンパクトに抑えて、2階以上に空間を張り出すことで床面積を増やせます。オーバーハングを設けることで「建ぺい率」の影響を受けずに家を建てられる場合がある(※用途地域・条件による)ため、特に土地の狭い都市部などで人気を集めています。

また、近年の木造や鉄骨プレカット技術の進歩によって、梁と柱の構造安定性が高まりました。その結果、張り出し構造が安全に実現できるようになったことも、オーバーハング建築の採用傾向を強めています。

オーバーハング建築の構造と寸法の基本

オーバーハング建築は、安全に設計することはもちろん、法律に則った構造・寸法にすることが欠かせません。

なお、オーバーハングを設計に取り入れるためには、構造ごとの張り出し制限や法令上のルールを正しく理解する必要があります。

特に木造住宅の場合には、構造材の強度や支持方法によって張り出しの限界が大きく変わるため、ここでは、寸法的な制約にはどのような基準があるのかを、建築基準法や実務例に基づいて解説します。

※参考1:国土交通省「2階建ての木造一戸建て住宅(軸組構法)等の確認申請・審査マニュアル」

※参考2:e-GOV法令検索「建築基準法施行令」

柱なしでも可能?木造の限界

オーバーハング建築は、木造でも柱なしで実現することは可能です。ただし、構造上の限界と設計条件をクリアする必要があります。

  • 約60〜90cm程度が柱なしで安全に張り出せる範囲とされています
    (※構造計算による)
  • より大きく張り出すためには、集成材の梁補強や、構造用合板による床剛性の向上、壁内に隠れた支持梁の設計などが必要

木造でも条件次第でオーバーハングは可能ですが「構造設計者による検討」「確認申請時の構造計算」を実施して安全性を維持できるかが前提になると覚えておきましょう。

どこまで張り出せる?

張り出し寸法の限界は、構造の種類(木造・鉄骨・RC)や構造材の断面性能・荷重条件によって次のように異なります。(設計基準等はないため、適宜構造計算等が必要)

構造種別安全に張り出せる一般的寸法(目安)
木造(在来)~90cm
木造(集成梁強化)~120cm
鉄骨造~200cm程度
RC造(鉄筋コンクリート)~300cm程度

※あくまで一般的な目安であり、実際には構造計算に基づく判断が必要です。

木造であっても、1m以上の張り出しを設計する例もありますが、その分コストと施工技術も要求されます。

また中高層の木造住宅建築に興味がある人は、以下の記事もチェックしてみてください。

オーバーハング建築のメリット・デメリット【プロ目線】

オーバーハング建築は、見た目のインパクト・おしゃれさ、敷地の有効活用といった魅力がある一方で、構造上・施工上の注意点が存在します。

ここでは建設の専門家視点で、オーバーハングの長所と短所を整理しました。

メリット(空間活用・デザイン性)

オーバーハング建築は、限られた敷地内での空間拡張と建物デザインの自由度を両立できるのが魅力です。次のように住居の利便性を高められます。

  • 道路側に2階を張り出すことで玄関の庇代わりとして活用できる
  • 車庫スペースや駐輪場上部の屋根として機能する
  • ファサードに立体感を出すことで、建売住宅との差別化が可能になる

特に都市部や狭小地では、建ぺい率や道路斜線などの法的制約によって、1階の建築面積に制限がかかることが多くなります。対してオーバーハングを用いれば、2階以上を張り出させて延床面積を稼げるため、実質的な居住スペースを拡張できます。

住宅設計の効率化を検討している方は、以下の記事もをチェックしてみてください。

デメリット・後悔の原因(施工難・費用・雨対策)

オーバーハング建築は、施工の難易度が高いことや、雨仕舞・断熱性への配慮不足からくる後悔が多く報告されています。以下に公開のポイントをまとめました。

  • 張り出し下部の水切り設計が甘く、雨だれで壁が汚れる
  • 梁のたわみや床の揺れが発生し、建物の寿命に影響する
  • 外壁の冷気伝導が起こり、冬場に寒くなる現象(断熱欠損)が起こりやすい

張り出した部分は構造的に「カンチレバー形式」となり、適切な梁補強・断熱材の施工・防水処理が必要です。設計時にこれらを見落とすと、雨漏りや熱損失、外壁腐食のリスクが高まります。

(参考:カンチレバー技術研究会「よくある質問」

オーバーハング建築はどんな人におすすめ?

オーバーハング建築は、特定の敷地条件やニーズをもつ人にとって非常に効果的な選択肢となります。以下に、最適な人のタイプをまとめました。

タイプ理由・背景
狭小地に家を建てたい人2階以上を張り出すことで、延床面積を最大化できる
セットバックが必要な土地を所有している人1階を下げても上階で居住空間を確保できる
L字型・変形地などの敷地を持つ人敷地の形状を活かして空間設計の自由度が増す
駐車スペースや玄関庇も確保したい人オーバーハングで庇代わりになる設計が可能
外観デザインにこだわりたい人ファサードに立体感が出て、建売住宅との差別化に有効
キューブ型・シンプルモダン住宅を好む人張り出しデザインが現代的なフォルムに適している
建築規制の中で空間を広げたい人建ぺい率・斜線制限をクリアしながら延床を確保できる可能性がある

土地の制限やデザイン性などの条件にあてはまる人は、オーバーハング建築により、居住空間に自由度を生みせるかもしれません。

オーバーハング建築の費用の目安

オーバーハング建築は、一般的な建物構造に比べて設計・施工の難易度が高いため、費用が割高になる傾向があります。(金額については要見積もり※業者や材料によって変動します)

ただし、どの部分でコストが上がるのか、そして予算オーバーを防ぐためにどのような工夫ができるのかを理解しておけば、費用面での後悔を防止できます。

コスト増加のポイント

オーバーハング建築は、構造補強・断熱処理・施工手間が必要になるため、次のような点でコスト増加につながりやすいです。

項目内容
構造補強梁の太さUP、集成材・鉄骨梁など
断熱処理張り出し部下の断熱・気流止め
雨仕舞処理排水設計・水切り板金など
設計料構造設計追加・確認申請補足

特別な構造を採用すると、通常よりも15〜30%程度の追加コストがかかる可能性があると見込んできましょう。

予算オーバーを防止するコツ

オーバーハング建築で予算オーバーを防ぐためには、初期段階からの構造検討・コスト意識を持った設計進行をすることが欠かせません。以下に予算オーバーを避けるコツをまとめました。

  • 張り出し寸法を構造的限界に近づけすぎない
  • 在来工法よりプレカット・工場加工を多用する
  • 水切り部材や笠木は標準品を利用する
  • 設計段階で構造計算と見積もりを同時進行する
  • デザインにこだわるなら他でコストバランスを取る

オーバーハング建築は、工夫次第でコスト増加を最小限に抑えることも十分に可能です。経験豊富な設計者との連携が重要になると覚えておきましょう。

オーバーハング建築のよくある質問

オーバーハングはどこからどこまで?

一般的には「基礎や外壁ラインより外に出ている部分」が該当します。構造上はカンチレバー(片持ち)として扱われており、張り出しの長さには法的な上限はありませんが、構造計算で安全性を証明する必要があります。

バルコニーや玄関庇もオーバーハングに含まれる?

含まれます。バルコニーや玄関上部の庇(ひさし)も、建物から外に張り出していれば、広義のオーバーハング構造に該当します。固定式で、上部から支持を受けていない形状であれば、構造的にカンチレバーとして検討される対象になります。

オーバーハングの家に起こるよくある失敗例は?

代表的な失敗例は「雨だれによる外壁汚れ」「排水設計の甘さによる漏水」「冬の冷気で床が冷える」などです。なお、水切り・断熱処理・排水勾配などを適切に設計すれば回避できます。設計段階でディテールまで配慮することが、後悔を防ぐポイントです。

まとめ

オーバーハング建築は、敷地の制約や建築規制をうまく乗り越えるための実用性とデザイン性を兼ね備えた設計手法です。ただし、構造や施工に関する知識が不足したまま採用すると、後悔につながるリスクもあるため、目的と条件に合った採用判断が欠かせません。

また近年では、オーバーハングなどの構造計算をBIMソフト上で自動化できるなど、パラメトリックデザインの効果により、効率的な設計も可能となりました。オーバーハング建築の検討を効率化するためにも、BIMソフトの導入を検討してみるのもひとつの手です。