国土交通省、建築分野の脱炭素推進、政府庁舎で生涯CO2排出量の計測・評価開始

国土交通省は5月16日、政府が建設する庁舎において、建築物の生涯にわたる二酸化炭素排出量を測定し、削減を目指す新しい制度の運用を開始すると発表しました。建築物が建設される前の資材製造段階から、最終的な解体処理まで、すべての過程で発生するCO2排出量の計測と削減に本格的に取り組みます。
この制度は「建築物のライフサイクルカーボン削減に関する関係省庁連絡会議」での決定を受けて実施されるもので、政府庁舎を対象とした先進的な環境対策として注目されています。

背景となる環境問題への対応
建築分野におけるCO2排出量は、日本全体の排出量の約4割を占めるとされており、地球温暖化対策において重要な課題となっています。これまで日本では、建築物の使用段階での省エネルギー対策に重点を置いてきましたが、今回の取り組みでは建設から解体まで全工程でのCO2削減を目指します。
2025年4月には、原則として全ての新築住宅・建築物に省エネ基準適合が義務付けられるなど、建築物使用時のCO2削減策が進められています。しかし、さらなる環境負荷軽減のためには、建材・設備の製造段階や建設工事、改修・維持管理、解体処理といった全過程での排出量削減が必要となっています。
具体的な実施内容
■CO2排出量の計測試行
令和7年度から設計を開始する一部の新築政府庁舎において、設計段階でのCO2排出量計測を試験的に実施します。この計測には、「J-CAT(建築物ホールライフカーボン算定ツール)」という専用システムを使用します。
J-CATは、産官学連携のゼロカーボンビル推進会議によって開発され、2024年10月に公表された評価ツールです。このシステムを活用することで、建築物の生涯CO2排出量を正確に算定することが可能になります。
■削減策の検討業務
複数の政府庁舎を対象として、CO2排出量の詳細な分析を実施します。建物の規模や構造の違いによる傾向分析を行い、排出量に大きな影響を与える要素を特定します。その結果をもとに、効果的な削減方法の課題整理と対策検討を進める予定です。
計測システムの仕組み
J-CATシステムでは、以下の手順でCO2排出量を算定します。
・資材数量データを入力し、標準的な算定方法でアップフロントカーボン(建材製造から建設完了まで)を計算
・システムに設定された更新周期や修繕率などの標準値を使用し、建物の維持管理段階から解体段階までのCO2排出量を自動計算
・CASBEE(建築環境総合性能評価システム)の評価結果と設計データを入力し、使用段階でのエネルギー消費によるCO2排出量を算定
今後の展開
この取り組みは、政府が率先して環境負荷削減に取り組むモデルケースとしての意味を持ちます。政府庁舎での実施結果を踏まえ、民間建築物への展開も視野に入れた制度整備が進められる見込みです。
地球温暖化対策計画(令和7年2月18日閣議決定)では、建築物のライフサイクルカーボン削減や算定・評価を促進するための制度構築が決定されており、今回の取り組みはその具体的な第一歩となります。
建築業界全体でのCO2削減に向けた取り組みが加速される中、政府による先進的な実証実験として、その成果が注目されています。
出典情報
国土交通省リリース,官庁施設における建築物 LCA の実施~ライフサイクルカーボンの算定試行と削減に向けた検討の開始~,https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001889379.pdf