自動化施工による建設現場革命へ|I-Construction 2.0を通じてインフラ整備のあり方を再定義する

労働力不足と老朽化するインフラが課題となる中、国土交通省は2024年4月、「i-Construction 2.0」を発表し、大きな一歩を踏み出した。このプログラムは、インフラDXアクションプラン2.0の一環として発表され、インフラの建設、利用、管理の方法を根本的に変革することを目指す。その中心には、自動化と省人化を推進し、労働人口の高齢化や建設業界の生産性向上の必要性といった喫緊の課題に対応する意図がある。国土交通省大臣官房参事官(イノベーション担当)の森下博之氏への取材をもとに、i-Construction 2.0の変革の可能性、技術的基盤、そしてそれがもたらす社会的影響について探る。

作業効率は上がるが、労働力の節約はできない

日本のインフラにおけるDXの歩みは、2016年に開始された「i-Construction 1.0」に始まる。この先駆的な取り組みは、3Dモデリング、ドローン、ICT(情報通信技術)を活用した建設機械を導入し、生産性向上を図ることを目的とした。森下氏によると、i-Construction 1.0は大きな成果を上げ、ICT搭載の建設機械は従来の方法に比べ作業速度を20~30%向上させた。しかし、1台の機械に1人のオペレーターが必要という制約は、労働力の節約という点で限界があった。これは、高齢化による労働力人口の減少が進む日本にとって深刻な問題だ。

この限界を克服するため、国土交通省は2023年4月にインフラDXアクションプランを発表した。このプランは、インフラの建設方法、利用方法、データ活用方法の3つの柱で変革を推進する。i-Construction 2.0は、最初の柱である「建設方法の変革」を具体化したプログラムだ。1.0が作業速度の向上に重点を置いたのに対し、2.0は「省人化」を目標に掲げ、現場の労働者数を減らしつつ、現在の生産性レベルを維持または超えることを目指す。このシフトは、労働力不足が今後さらに深刻化するという認識に基づいている。

自動化による建設現場の再構築

i-Construction 2.0の核心は自動化である。森下氏は「自動化とは、遠隔操作の機械から完全自律システムまで幅広い技術やアプローチを包含する概念だ」と強調する。このプログラムは、効率性だけでなく、人口動態の現実に応じて建設現場を再構築することを目指している。2040年までに日本の労働年齢人口は大幅に減少すると予測されており、労働集約型の建設は持続不可能となる。i-Construction 2.0は、1人のオペレーターが複数台の機械を操作したり、機械が繰り返し作業を自律的に実行したりすることで、この課題に対応する。

カギとなるのは、バックホウ、ブルドーザー、ローラー、ダンプトラックといった汎用重機の自動化だ。これらの機械は、ダム、道路、トンネルなどのプロジェクトで広く使われており、繰り返し作業が多いため自動化に適している。たとえば、バックホウが土を掘ってダンプトラックに積み込む作業は、成瀬ダムや石岡トンネルなどの現場で既に試験的に導入されている。森下氏は、「これらの作業は単純に見えるかもしれないが、建設作業の根幹を成すものであり、その自動化は業界に革命をもたらす」と語る。

成瀬ダムプロジェクトは、i-Construction 2.0の旗艦プロジェクトだ。ゼネコンと建機メーカーが協力し、重機を最小限の人的介入で操作する自動化システムを開発した。このプロジェクトは、大規模インフラであるダムが自動化プロセスで建設可能であることを実証し、大きなマイルストーンとなった。森下氏は「この成果が自動化に対する認識を変え、技術の実用性を証明した」と述べる。

オペレーターを「苦役作業」から解放する

i-Construction 2.0の最大のメッセージは「省人化」だ。従来のi-Constructionが作業速度の向上を通じて生産性を高めたのに対し、2.0は現場の労働者数を減らすことに焦点を当てる。たとえば、1人のオペレーターが複数台の機械を遠隔で監視・操作したり、機械が一定の作業を自動実行したりすることで、従来と同じ、またはそれ以上の成果を少ない人数で達成する。このアプローチは、単なる効率化を超え、建設現場の労働環境や業界のイメージを変革する可能性を秘めている。

森下氏は「建設現場は過酷な環境であり、振動や騒音、狭い空間での長時間作業がオペレーターに大きな負担を強いている」と指摘する。たとえば、振動ローラーの操作は、機械の振動にさらされ続ける「苦役作業」だ。自動化や遠隔操作により、オペレーターはエアコンの効いた快適な操作室で作業でき、振動や過酷な気象条件から解放される。これにより、安全性が向上し、労働環境の改善が図られる。また、遠隔操作や自動化技術の導入は、建設業界のイメージを「力仕事」から「先端技術を駆使する仕事」に変え、若者の参入を促す効果も期待される。

国土交通省大臣官房参事官(イノベーション担当)の森下博之氏

さらに、省人化は働き方改革にも直結する。2024年問題として知られる建設業界の残業規制に対応するため、多くの企業が人員増やシフト制を導入しているが、i-Construction 2.0は根本的な解決策を提供する。森下氏は、自動化による労働者数の削減が残業時間の短縮や柔軟な働き方につながると強調する。たとえば、現場に行かずに遠隔で施工管理や確認作業を行う「遠隔臨場」は、すでに多くの現場で導入が進み、作業効率と労働環境の改善に貢献している。

自動化実現上の技術的課題と解決策

自動化の実現には、いくつかの技術的・制度的課題が存在する。森下氏は、「i-Construction 1.0の経験から、これらの課題を予測し、対策を講じている」と言う。主な課題は以下の3つだ。

1. 自動化建機の製品化

自動化建機の普及には、メーカーによる標準化された製品の提供が不可欠だ。現状では、ゼネコンが自社でICT建機を改造するケースが多い中小企業にはそのような技術的・資金的余裕がない。森下氏は、建機メーカーが自動制御信号を共通化する「OPERAS」プロジェクトを推進し、異なるメーカーの機械が同じ信号で操作できるようにする取り組みを進めている。これにより、自動化建機が製品として市場に供給され、レンタルや補助金制度を通じて中小企業にも導入しやすくなる。

実際、ICT建機はすでに中小企業向けの省力化投資補助金の対象となっており、カタログ登録された製品に対し最大50%の補助金が支給される。自動化建機も同様の仕組みを活用し、普及を加速させる計画だ。

2. 自動化を設計する人材の育成

自動化の導入には、現場をシステムとして設計する人材が必要だ。森下氏は、IT業界のシステムインテグレーター(SIer)に相当する「建設現場の自動化SIer」の育成が急務だと指摘する。この人材は、システム技術と建設現場の知識を兼ね備え、自動化プロセスを最適に設計する役割を担う。政府は、SIPやBRIDGEといった技術研究開発プロジェクトを通じて、シミュレーターや育成プログラムを開発し、こうした人材の養成を進めている。

3. 通信インフラの整備

遠隔操作やデータ連携を支える通信環境も重要な課題だ。建設現場では、携帯キャリアの電波が届かない場所も多く、通信環境の整備が急務となっている。国土交通省は「DXネットワーク」として、100Gbpsの光ファイバーネットワークを全国の整備局や出先機関に展開し、将来的には現場まで延伸する計画を進めている。この取り組みにより、自動化やデータ活用に必要な高速・安定した通信環境が整備される。

将来の労働力不足、インフラ維持管理を視野に入れる

i-Construction 2.0は、単なる技術革新にとどまらず、社会的課題の解決を目指す。森下氏は、コスト削減だけを追求するのではなく、将来の労働力不足やインフラの維持管理に対応する技術基盤を構築することが重要だと強調する。2040年以降、労働力不足が深刻化する中で、自動化技術は道路や橋の建設だけでなく、災害復旧や老朽インフラの修繕といった対応力の維持にも不可欠だ。

i-Construction 2.0は宇宙開発にも視野を広げている。国土交通省は、月面での建設を想定した「宇宙無人建設プロジェクト」に取り組み、自動化技術のデュアルユース(地上と宇宙での活用)を推進している。月面での建設は、輸送コストや過酷な環境といった課題があるが、地上の自動化技術の開発が宇宙での応用につながる可能性がある。森下氏は、こうした挑戦が新たな技術的ブレークスルーを生み出すと期待する。

業界の反応もポジティブだ。森下氏は、当初は自動化や省人化の目標に対する懸念があったものの、建設業界からは「担い手不足への対応として喫緊の課題」との声が上がり、強い賛同を得ていると語る。特に、繰り返し作業の自動化は中小企業にとっても導入のモチベーションが高く、規模に応じた自動化の適用が期待される。

初期コストはかかるが、いずれ生産性向上がコストを吸収する

i-Construction 2.0の成功には、さらなる課題への対応が必要だ。中小企業への技術普及には、コストや技術的ハードルの低減が求められる。森下氏は「ICT施工の経験から、初期投資コストは高いものの、普及が進むにつれてコストが低下し、生産性向上がコストを吸収する」と見込む。自動化建機も同様に、使いこなす企業が増えることで「これがないと仕事ができない」という状況が生まれつつある。

また、発注者側の理解と対応力の向上も重要だ。国土交通省は、インフラDXセンターを各地に設置し、職員や自治体向けの研修を強化している。i-Constructionの9年間で培った横展開の仕組みを活用し、自動化や遠隔施工の導入を支援する。

さらに、データ活用の進化も見逃せない。i-Construction 2.0は、ICT施工ステージⅡとして、現場データの最適化を推進する。ダンプトラックの位置情報や掘削量などのデータを活用し、待ち時間や無駄を削減する取り組みだ。また、国土交通データプラットフォームを通じて、オープンデータの提供やAPI開発を進め、民間企業や自治体との連携を強化している。

インフラ整備のあり方を再定義する

i-Construction 2.0は、技術革新を超えた日本のインフラ戦略だ。森下氏は「現在のコスト負担を過度に重視するのではなく、将来の労働力不足やインフラ維持の必要性を見据えた先行投資」の重要性を訴える。「今取り組まなければ、将来立ち行かなくなる」という強い意志のもと、自動化技術の開発と普及が進められている。

この取り組みは、建設業界の労働環境を改善し、若者に魅力的な職業としてアピールする一方で、災害対応力や宇宙開発といった広範な領域にも貢献する。i-Construction 2.0は、単なるプログラムではなく、持続可能な建設現場未来を築くためのビジョンだ。自動化と省人化を通じて、インフラ整備のあり方を再定義するこの挑戦は、国内外の注目を集め、今後の展開が期待される。