大成建設、VR切羽観察システムT-KIRIHA VR機能拡張で山岳トンネルの安全性向上

大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、「生産プロセスのDX」の一環として、2023年に開発した山岳トンネル工事におけるVRを活用した切羽観察システム「T-KIRIHA VR」の機能を拡張し、2025年4月17日に発表しました。この技術革新により、岩盤の亀裂面における走向傾斜(方位・傾斜角)をより詳細に計測できるようになり、切羽前方の不安定な岩塊の位置と規模を正確に予測することが可能になります。切羽での落石リスクを事前かつ詳細に把握することで、山岳トンネル工事の更なる安全性向上を図ることができます。
目次
従来の切羽観察の課題と安全への懸念
山岳トンネル工事では、掘削中に岩石が突然剥がれ落ちる「肌落ち」による事故を防ぐため、切羽の地山状況を把握する「切羽観察」が欠かせません。しかし従来の方法では、岩盤の色や亀裂面の位置、走向傾斜などを切羽から少し離れた位置で目視により確認していたため、正確な地山状況の把握が困難でした。
また、切羽付近は常に崩落の危険性があるため、作業員が近づいて詳細な観察を行うことにはリスクが伴います。このような状況下では、地山の不安定要素を見落とす可能性もあり、工事の安全性に課題を残していました。
3DレーザースキャナとVR技術の融合による画期的なシステム
この問題を解決するため、大成建設は2023年に「T-KIRIHA VR」を開発しました。このシステムは3Dレーザースキャナで切羽を計測し、得られた点群データをもとにVR空間上で切羽を高精度に再現します。これにより、実際に危険な切羽に接近することなく、安全な場所から詳細な観察が可能になりました。
VR空間内では切羽の様々な角度からの観察や、拡大表示による微細な亀裂の確認も行えるため、従来の目視観察では得られなかった詳細な情報を収集できます。また、いつでもどこでも切羽の状態を確認できるため、地質の専門家が遠隔から適切な評価と助言を行うことも可能になりました。
新機能の追加でさらなる精度向上と危険予測
今回の機能拡張では、岩盤の亀裂面における走向傾斜データを高精度に計測する新機能が追加されました。拡張された「T-KIRIHA VR」では、計測した亀裂面を円盤モデルで表示し、複数の亀裂面を組み合わせて立体的に可視化することができます。これにより、地山内部の亀裂の立体的な関係性を直感的に理解することが可能になりました。
さらに重要な進化として、取得した正確なデータをもとにキーブロック解析を行うことができるようになりました。キーブロック解析とは、岩盤内の亀裂の組み合わせによって形成される不安定な岩塊(キーブロック)を特定し、その安定性を評価する手法です。これにより、今後の掘削で落石が発生する可能性が高い危険箇所を事前に特定し、適切な対策を講じることができます。
現場作業と遠隔管理の両面で活躍
本システムの活用により、現場での安全確保だけでなく、施工管理の効率化も実現します。従来は現場に赴く必要があった地質専門家や監督者も、遠隔から切羽の状況を確認し、適切な判断を下すことが可能になります。これは「遠隔臨場」と呼ばれる新しい施工管理手法で、移動時間の削減や複数現場の同時管理など、働き方改革にも貢献します。
また、VR空間内で共有された切羽データを基に、発注者を含む工事関係者間で地山状況に関する情報を共有し、リスクについて適切な合意形成を図ることができます。これにより、安全性に配慮しつつ効率的な施工計画の立案と実行が可能になります。
今後の展望と技術開発の方向性
大成建設は今後も本システムの現場適用を進めるとともに、AIを活用した不安定岩塊の自動検出や、過去の施工データとの比較分析など、さらなる機能強化に取り組む予定です。特に予測精度の向上は最重要課題とされており、蓄積されたデータを基にした学習モデルの構築も検討されています。
同社は「生産プロセスのDX」を積極的に推進しており、T-KIRIHA VRはその中核を担う技術として位置づけられています。なお、大成建設は「情報処理の促進に関する法律」に基づくDX認定企業でもあり、デジタル技術を活用した建設業の革新に取り組んでいます。
出典情報
大成建設株式会社リリース,VRを活用した切羽観察システム「T-KIRIHA VR®」を機能拡張-切羽前方の不安定岩塊を的確に予測し、山岳トンネル工事の更なる安全性向上を実現-,https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2025/250417_10440.html