土木業界のアセットマネジメントとは?国交省のインフラ整備方針とストックマネジメントとの違いを解説

土木業界で取り組まれているアセットマネジメントが何なのか、よくわからないとお悩みではないでしょうか。また何のためにマネジメントが必要なのか、その理由を知りたい人もいるはずです。
そこでこの記事では、アセットマネジメントの定義や目的について解説したのち、土木業界で取り組まれている施策を事例付きで紹介します。
目次
土木(建設)のアセットマネジメントとは?
建設業界の土木分野で実施されている「アセットマネジメント」とは、以下に示すようなインフラ資産(アセット)を長期的な視点から、費用対効果の高い計画・維持管理の方法を見つけ出す運用手法です。
- 道路
- 橋梁
- 上下水道
当マネジメントは、国土交通省も推進する考え方であり、著しいインフラの老朽化を防止するため、早急に実行に移さなければならない対策となります。
なおアセットマネジメントは、土木業界のルールとして定められている定期点検(5年に1回)および補修・補強といったメンテナンスを通じ、予防保全型での対策を実施しつつ、効率よいインフラの管理環境を構築するのが目標です。国内にある数十万以上のインフラの長寿命化を図り、発生するライフサイクルコストを最小限に抑えるために施策がスタートしています。
国土交通省が示すアセットマネジメントの目的
公共インフラの持続可能な運営を実現するため、国土交通省では戦略的かつ体系的な維持管理を行うことを目的として、アセットマネジメントに取り組んでいます。
【加速度的に進行するインフラ老朽化への対応・インフラ管理の最適化】
様々なインフラの老朽化に対して、如何に官民連携を促し、優先順位を付けながら、予防保全型インフラメンテナンスへの本格転換を図るべきか。
一部引用:国土交通省「今後の社会資本整備の施策の方向性について」
例えば、ライフサイクル全体を見通した資産管理を行うこと、また突発的な修繕費用やリスクを抑えながら、地域の安全性・快適性を維持できることなどが今後の取り組みの目標です。土木業界に携わる官民一体でインフラの安定化を図るため、現在進行形でアセットマネジメントが実行されています。
ストックマネジメントとの違い
土木業界では、アセットマネジメントとは別に、ストックマネジメントという手法も実施されています。
ここで言う土木業界のストックマネジメントは、特定の構造物(道路、橋梁、トンネルなど)の劣化状況や使用年数をもとに、物理的な補修や更新時期を管理することです。以下に詳しい違いをまとめました。
項目 | ストックマネジメント | アセットマネジメント |
主体 | 技術部門 (施設管理部など) | 経営部門 & 技術部門の連携 |
対象 | 橋梁・下水道・道路など構造物単位 | 地域全体のインフラ資産ポートフォリオ |
主な目的 | 老朽化対応・補修時期の見極め | 中長期視点での資産最適化・リスク管理 |
データ活用の視点 | 過去の実績・現状の構造的データ | 将来予測・LCC(ライフサイクルコスト)を重視 |
国土交通省による 位置づけ | アセットマネジメントの一部 | 政策レベルの重要施策 |
つまり、ストックマネジメントはアセットマネジメントのなかに含まれるひとつの施策です。インフラ資産を包括して管理するなかで、個別の対策を実施する際にストックマネジメントが用いられます。
維持管理との違いと類似点
維持管理は「日常の点検・補修業務」に特化した実務のことで、アセットマネジメントに含まれる動き方のひとつとなります。また維持管理はストックマネジメントに含まれる施策であり、それぞれの位置付けは次の通りです。
「アセットマネジメント > ストックマネジメント > 維持管理(ほか設計や補修工事など)」
アセットマネジメントが全体計画であることに対し、維持管理は構造物別の実務的な工事検討の要素となります。
また土木業界では、コンストラクションマネジメントといった考え方も存在します。詳しくは以下の記事をチェックしてみてください。
土木業界でアセットマネジメントの導入が進む理由
土木業界でアセットマネジメントの導入が後押しされているのは、インフラの持続可能な運営に関わる以下の問題が関係しています。
- 人口減少に伴う自治体の財政制約
- 老朽化インフラの増加
- 国交省ガイドラインと法制度が変化
例えば、地方部の人口減少の影響を受け、少ない人口でありながら多大なインフラ整備予算を組まなければならない自治体の負担を減らすために、アセットマネジメントの考えが役立ちます。また以下のグラフのように、インフラ施設全体の老朽化が進んでいるため、何を優先的に対処するのかを決める際にもマネジメントの考えが必要です。
出典:国土交通省「建設後50年以上経過する社会資本の割合」
特に現在、地方自治体ではCIM(BIM/CIM)やGISを活用した状況の「見える化」が推進されています。アセットマネジメントの導入により、インフラの投資判断の質が大きく変わりつつあるのが土木業界のトレンドです。
なお土木業界の老朽化の最新動向を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
【インフラ分野別】アセットマネジメントの実践事例
アセットマネジメントの考え方は、すでに全国の自治体・民間企業で導入が進んでいます。そのなかでも道路・橋梁、上下水道といった主要インフラで実施されている取り組みの事例をまとめました。
道路・橋梁|劣化予測と長寿命化計画
アセットマネジメントのなかでもメインで実施されているのが、道路や橋梁といった交通に欠かせないインフラへの対策です。
例えば、NEXCO中日本では、道路管理の情報を一元管理できる「アセットマネジメントシステム」を構築・導入しています。
出典:JAAM「箱根ターンパイクにおけるアセットマネジメントシステム」
劣化予測とLCCに基づいた更新判断をすることで、リスクに対する予防策を取り入れた維持管理計画が機能し、管理の効率化が実現しました。これにより、複雑化しやすいリニューアル工事の優先順位決めや実施すべき対策の立案ができるようになりました。
上下水道|水道法改正と更新計画
上下水道では、平成21年に「水道事業におけるアセットマネジメント(資産管理)に関する手引き」が策定されたのち、継続的に電子システムの導入が進んでいます。
また、平成30年(2018年)の水道法改正以降、全国の水道事業体に対し「経営戦略(アセットマネジメント)」の策定が努力義務となり、積極的なアセットマネジメントの立案が求められるようになりました。
出典:国土交通省「令和6年度 全国水道主管課長会議」
そのような背景もあり、現在は国土交通省の上下水道審議官グループより「上下水道DX 技術カタログ(令和7年3月)」が公開されています。徐々にDX化に向けた施策やマネジメントに役立つシステムが登場しており、上下水道管理の効率化が実現しつつある状況です。
また水道施設の耐震化の状況を詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
下水道|ストックマネジメントからの移行
下水道はこれまで、長い間ストックマネジメントの代表的分野とされてきました。しかし、近年ではLCC(ライフサイクルコスト)での視点や改築投資の優先順位化によって、アセットマネジメントへと移行が進んでいます。
例えば、札幌市では「札幌市下水道ビジョン2030」を策定し、下水道管理の中長期的なステップアップを計画しています。
出典:札幌市 下水道河川局「札幌市下水道ビジョン2030」
実際に、上記のようなICT技術を活用し、人が入り込めない下水道の維持管理も実施中です。機械やデータを活用したマネジメント環境ができあがりつつあります。
また以下のページでは、土木業界のDX活用事例を紹介しています。アセットマネジメント以外の土木業界の取り組みをチェックしたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
アセットマネジメントは、土木インフラの維持管理を「守ること」から「戦略的経営」へとシフトチェンジする重要な施策です。
人口減少やインフラの老朽化といった問題が起きている今、土木業界におけるアセットマネジメントの導入は、地域の未来を守る「持続可能なまちづくり」に欠かせない要素となります。すべての関係者が共通の考えをもち、技術と経営の両輪でインフラを支えていくことが欠かせません。