大成建設開発、ボルトと接着剤併用の新接合法T-Glue Jointが大阪・関西万博で実用化

大成建設株式会社(社長:相川善郎)は、建築現場に新しい価値を生み出す新技術を開発しました。「T-Glue Joint(ボルト併用タイプ)」と名付けられたこの技術は、高力ボルトと構造用接着剤を組み合わせることで、鉄骨部材をより強固に、より効率的に接合することを可能にします。この画期的な技術は、2025年開催予定の大阪・関西万博において、シグネチャーパビリオンの中の「EARTH MART」の鉄骨ブレース接合部に採用されることが決定し、構造材としての国内初の実用化となります。

従来技術の課題

建築業界における鉄骨部材の接合は、これまで主に高力ボルト接合と溶接接合の二つの方法が用いられてきました。しかし、これらの従来工法には課題がありました。接合箇所が増えると作業に時間がかかり、その結果、工事費用が増加してしまうのです。一方で、航空機産業や自動車産業では、高強度の構造用接着剤が広く活用されています。しかし、建築分野での構造用接着剤の使用には制限がありました。接着剤は建築基準法で定められた指定建築材料ではないこと、また接着層にひび割れが生じた場合、一気に破壊が広がる「脆性破壊」のリスクがあることから、非構造部材への使用に限られていました。

新技術による課題解決

これらの課題を解決するため、大成建設は高力ボルト接合と構造用接着剤を組み合わせた新しい接合方法を開発しました。実際の荷重をかける実験を通じて、この接合法が構造部材として十分な強度を持つことを確認。さらに、第三者機関による安全審査も通過し、構造部材としての使用が承認されました。

新技術の3つの特長

■経済性の向上

「T-Glue Joint」は、接着剤のせん断接着力を活用して応力を伝達します。この方式により、従来の高力ボルト接合と比べて約2倍の強度を実現。その結果、接合部の面積を20%削減し、使用する高力ボルトの本数も30%減らすことができます。これにより、建設コストの大幅な削減が可能となります。

■安全性の確保

鉄骨部材に接着剤を塗布した後、高力ボルトで締め付けることで、安定した強度を実現します。また、大地震などで万一接着層が破断した場合でも、高力ボルトが安全装置(フェールセーフ)として機能する設計となっています。

■施工性の改善

従来の接着工法では、接着剤の可使時間(使用可能な時間)内に作業を完了する必要がありましたが、本技術では可使時間の長い接着剤を採用。これにより、作業時の時間的制約が大幅に緩和され、施工がしやすくなりました。

今後の展開

大成建設は、今回の開発と実証実験で得られた知見を活かし、新築建築物やリニューアル工事など、幅広いプロジェクトでの技術活用を目指しています。特に、2025年の大阪・関西万博での実績を足がかりに、建築業界全体への普及を進めていく方針です。

用語解説

・高力ボルト接合:

建築物の柱と梁の接合部などで使用される接合方法。ボルトの強い締付力によって生じる部材間の摩擦力で応力を伝達します。

・脆性破壊:

物体が外力を受けた際に、ほとんど変形することなく突然破壊する現象を指します。

・可使時間:

接着剤の主剤と硬化剤を混ぜ合わせてから、ボルトの本締めまでに作業を完了しなければならない時間のことです。

この新技術の実用化により、建築業界における接合技術は新たな段階に入ることが期待されます。従来の課題を解決しながら、より安全で効率的な建築物の建設が可能となることで、建築業界全体の発展に貢献することが見込まれています。

出典情報

大成建設株式会社リリース,高力ボルトと構造用接着剤を併用した鉄骨部材の接合法「T-Glue Joint」を開発-2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の鉄骨造建築物の鉄骨ブレース接合部に国内初適用-,https://www.taisei.co.jp/about_us/wn/2024/241220_10259.html