水平リサイクルのメリットや課題|建設業での事例

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著者:小日向

トレンドワード:水平リサイクル

「水平リサイクル」についてピックアップします。資源を無限に循環利用できることから環境負荷が少ないのがメリットで、建設業での導入が期待されています。本記事では国交省で議論されている内容や、具体的な水平リサイクルの事例をご紹介します。

リサイクルの種類

リサイクルは、主な方法別に「カスケードリサイクル」と「水平リサイクル」に分けられます。ここでは、それぞれの違いについてご紹介します。

カスケードリサイクル(オープン・ループ・リサイクル)

https://www.nipponsteel.com/csr/steelcan/detail.html

カスケードリサイクルとは、元の製品より低い状態に戻してリサイクルを行う方法のことを指します。オープン・ループ・リサイクルとも呼ばれ、性質の劣化・変化を伴うため、元の素材に戻ることはありません。

具体的には「ペットボトルを粉砕して再生フレークにした後、卵パックにリサイクルする」といった例が挙げられます。

カスケードリサイクルでは違う製品にしか生まれ変われず、リサイクルの回数にも限度があるのがデメリットです。最終的にはゴミとして廃棄されるため、環境負荷も大きくなってしまいます。

水平リサイクル(クローズド・ループ・リサイクル)

https://www.nipponsteel.com/csr/steelcan/detail.html

水平リサイクルとは、使用後に同じ素材として再利用するリサイクルのことを指します。英語では「クローズド・ループ・リサイクル」と言い、不純物除去を行うことで無限に循環利用できるのが特徴です。

具体的には、「ペットボトルを原料に戻し、再びペットボトルを作る」といった例が挙げられます。また鉄鋼は磁石にくっついて簡単に選別できることから、水平リサイクル率が高い素材です。自動車用鋼材が約89%、スチール缶が約93.3%となっています。

水平リサイクルのメリット

水平リサイクルの主なメリットとしては、下記の点が挙げられます。

CO2削減に繋がる

水平リサイクルでは、使用済みの製品を再び同じ製品の原材料として使用します。これにより新たな原材料を採掘、生産、輸送する必要がなくなります。原材料の採掘や生産、輸送には多くのエネルギーが必要ですが、再利用によりCO2排出を削減できるのです。

また水平リサイクルにより、廃棄物の量も減少します。廃棄物処理ではCO2やその他の温室効果ガスを放出してしまいますが、使用済み製品の再利用により排出量を削減できます。

循環経済が実現する

水平リサイクルは、使用済み製品を再利用して同じ製品の製造に使用することを意味します。このプロセスにより、資源の持続可能な利用が促進できます。新たな原材料を使用する必要がなくなることで資源の枯渇を防ぎ、循環的な資源利用が実現するのです。

また循環経済は、新たなビジネスモデルや産業の創出につながります。製品の再利用やリサイクルに特化した企業が成長すれば、新たな雇用機会が生まれます。水平リサイクルは循環経済を支え、資源の持続的な利用や廃棄物の削減を実現する重要な手段です。

建設業での水平リサイクル|国交省が検討開始

国土交通省では、カーボンニュートラルへの貢献や、廃棄物を最終処分せずに有効利用する「水平リサイクル」の推進に向けた議論を進めています。ここでは、『建設リサイクルの「質」の向上に向けた方向性と課題』で取り上げられている水平リサイクルについてご紹介します。

建設業における水平リサイクルとは

建設分野におけるリサイクルに関するCO2は、主に産業部門や運輸部門等で発生しています。そしてカーボンニュートラル実現のためには、これらの部門をターゲットにCO2削減の取組を進めることが重要です。

そしてストックを有効活用しながら付加価値を生み出す循環経済の実現には、使用済製

品を原料に用いて同種の製品を製造する「水平リサイクル」が重要と考えられています。

建設リサイクルにおける水平リサイクルとしては、建設廃棄物を元の建設資材に再資源化することや、貴重な資源を最終処分せずに有効利用を進めることが該当すると述べられています。

【参考】『建設リサイクルの「質」の向上に向けた方向性と課題』

水平リサイクルの具体例

ここでは、建設業で実現可能な水平リサイクルの具体事例をご紹介します。

①コンクリート塊

出典:国土交通省ウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/06shiryou3.pdf

コンクリートは、中性化の工程で表面から二酸化炭素(CO2)を吸収する性質があります。さらにコンクリート塊を破砕して再生材を製造する過程でもCO2を吸収し、細かく砕くほど表面積が増えてCO2吸収量が増えます。

そのため現状では、コンクリート塊は約94%が再生クラッシャランに再資源化されています。しかし再生クラッシャランの利用率は37%と低く、需要過多により再生クラッシャランの在庫が積み上がっているとの声も多いのが課題です。

こういった事情から、再生クラッシャラン以外の再生用途の拡大が求められています。新材骨材の利用抑制の面からも、循環経済の実現にとって重要です。

②アスファルトコンクリート(As)塊

As合材利用量に占める再生As合材の利用率は92%と高いですが、新材も8%利用されています。また再生As合材の製造過程でも、新材であるAs用骨材等が48%利用されているのが現状です。

一方で、廃As塊の23%は再生砕石として再資源化されています。そしてAs塊の約1/4は、アスファルト成分が付着したまま、再生砕石として再資源化されます。そのため再生As合材への再資源化率を高めることでアスファルトを有効利用でき、CNへの貢献ができると考えられています。

③建設木材

建設発生木材の約6割は焼却され、サーマルリサイクルされています。しかし木材は大気中のCO2を吸収して成長しており、焼却処分でCO2が発生してもトータルでのカーボンニュートラルは実現できると考えられています。

しかし焼却しない場合はCO2が「固定化」されていることから、マテリアルサイクルの方がCO2排出量削減への貢献度が大きいです。

④建設汚泥

現場搬入される土の利用量約6,525万㎥のうち、建設汚泥処理土の利用量は約52万㎥と1%未満(H30)になっています。

他方、建設汚泥の建設汚泥処理土への再資源化量は約402万t(約200~300万㎥)と大きく乖離しており、利用拡大が課題です。

⑤建設発生土

建設発生土は約5,873㎥が最終処分されている一方、新材も約2,506㎥購入されています(H30)。そのため新材利用を減らし、建設発生土やそれらの土質改良土等を有効活用することが課題です。不適切な土の利用を防ぐ観点からも、土の有効活用を促進することが求められています。

⑥プラスチック

建設工事におけるプラスチックの排出量は約73.3万t(H30)と、24年と比較して約37%増えています。建設混合廃棄物からの分別率は約51%(H24)から約71%(H30)に改善していますが、排出量は今後も増加する見込みで対策が必要です。

⑦石膏ボード

石膏ボードは再資源化率が約72%にとどまっており、現時点では特定建設資材への指定がなされていません。

再資源化される石膏ボードの約4割が石膏ボード原料となりますが、石膏ボード全体に占めるリサイクル品は1割です。一方、残りの約6割はセメント原料や土壌固化材等になっています。そのため石膏ボードの現場内分別や再資源化、利用先の拡大が課題です。

水平リサイクルの課題・問題点

水平リサイクルの課題・問題点としては、下記の点が挙げられます。

  • リサイクル率が低い
  • 費用が掛かる
  • 異物除去の手間が掛かる

まず、リサイクル率が低いことは大きな課題です。これは、リサイクルを行うための施設やシステムの未整備や、適切なリサイクル方法が徹底されていないことが原因となっています。

またリサイクルには費用がかかるため、企業や個人がリサイクルを行う際には経済的な負担が発生します。さらに、異物除去の手間も課題です。リサイクルプロセスには、不純物や異物を取り除く作業が必要であり、これには時間と労力が必要です。

こういった課題を解決するためには、リサイクルシステムの改善や教育・啓発活動の強化、技術革新などが必要です。

まとめ

水平リサイクルでは資源を廃棄せず無限に循環できるため、環境負荷を軽減できます。すでにペットボトルや鉄鋼では導入が広がっていますが、今後建設業での取り組みも期待されています。