今後に期待?建設業界における自動設計の活用状況と事例を解説

設計業務は、膨大な時間がかかる業務の1つです。変更があった場合には、再計算が必要とされ、施主に対しても代替案を提示しなければなりません。しかし、自動設計を可能とするシステムやプラットフォームを駆使する企業も現れはじめました。

今回は、自動設計の概要やメリット、各社が開発しているツール・システムについて詳しくみていきましょう。

「トレンドワード:自動設計」

建築業界でも、AIを活用した自動設計を行うケースが増加しています。構造計算やデザイン部分において、過去のデータを参照したうえで、施主のニーズに合わせた建築物の設計を自動化できる点が特徴です。

たとえば、次のような項目であれば自動化できる環境が整いつつあります。

  • 周辺の環境に合わせた性能を満たした設計
  • 間取り図の生成
  • 壁や間仕切りの移動に合わせた図面の変更

これまで、人の手でなければ計算できなかった計算や躯体数量などを自動的に計算することも可能です。そのため、自動設計を取り入れた場合、今後設計士の仕事内容がより創造性の高いものに変化していくと想定されます。

建築業界における設計AIの活用状況

設計におけるAIの活用は、大きく分けて次の3つの項目に分けられるでしょう。

  • リサーチ-過去のデータを参照し、学習した上で必要なデータを引き出せるようにプログラムされたAI。経験やノウハウに頼らず、調査を完了できるため、設計者の負担軽減・若手の育成にもつなげられる
  • 構造計画-柱、梁の断面サイズを仮定して構造計算を行う「仮定断面」の推測が可能。構造計算の結果に直接影響する要素だが、人間の手のみに任せず、よりスムーズな変更の検討もできる
  • 部分設計-部分的な詳細設計を必要とする場合の図面の書き出しを、自動的に行うことができる。また、部材数や断面を柱ごとに変更するといった場合の計算も可能となるため、人間の視点も含めて多用なデザインを提案しやすくなる

自動設計における3つのメリット

自動設計は、構造計算や詳細な画像の作成能力に優れています。そのため、「AIを活用したうえで、どのような提案を施主に行うのか」といった点が今後の設計士の評価ポイントになっていくと想定されるでしょう。

ここでは、そういった点もふまえて自動設計を活用する3つのメリットについて、みていきましょう。

顧客ニーズに沿った設計ができる

建築物は、顧客のニーズに合わせたうえで、建築する場所や建物の法的要件を満たす必要があります。自動設計であれば、建物の仕様や設計のデザインまで踏まえたうえで、膨大なデータやパターンの中から適切な答えを素早く示せます。

また、構造計算や見積もりといった人の手がどうしても必要だった部分も自動設計によって効率化可能です。たとえば、BIMと組み合わせた場合には、施工から竣工後の保守までの話し合いをおこなうこともできるでしょう。

環境も含めた要件のデータ整理がしやすくなる

設計を行う場合は、土地の広さや建物の大きさ、周辺の環境など様々な要素を検討する必要があります。自動設計を活用すれば、各項目ごとのポイントを満たしたデータ整理がしやすくなります。

また、依頼内容の確認においても自動設計は有用です。決まった項目があれば網羅したうえで、ニーズを満たすことができます。ただし、コンセプトなどの目にみえにくい思いなどを反映したいといった場合は、施主との直接的なコミュニケーションも大切です。

人の創造力に頼らないデザインの提案ができる

これまで設計業務においても経験やノウハウを必須とするケースは、多かったといえます。しかし、自動設計を活用すれば、地形や環境などを考慮した設計がより行いやすくなるでしょう。

また、自動設計で提案されたデザインが人間では思いつかないものとなるケースも想定されます。自動設計が業界的に普及した場合には、構造的な設計の精度を担保したうえで、デザイン性の強い、長く使用できる建築物が今後増加していく可能性があるといえます。

設計業務におけるAIの活用事例

ここでは、設計業務におけるAIの活用事例について、みていきましょう。すでに大手ゼネコンにおいては、設計に関して、独自のノウハウやデータを詰め込んだプラットフォームやシステムを稼働させているケースも多い状況です。

竹中工務店

竹中工務店では、構造設計システムとして、「BRAINNX」を開発・運用しています。建築モデルの入力を容易にする機能や断面設計、複雑な建物のデザインに対応することが可能です。また、各種CADやBIMソフトと連携できることから、スムーズな設計を可能としています。

実際の業務における「BRAINNX」は次のように活用されています。

  • 類似制制の高い過去の事例をリサーチした上で、最適な構造計画を提案
  • 配置条件や構造的特徴から必要断面寸法を推定

清水建設

清水建設では、設計初期段階の鉄骨造における構造検討業務支援AI「 SYMPREST」を開発しました。部分断面の検討や設定が容易となり、設計者の負担を軽減することが可能です。ただし、使用できる高さは地上60m以下となっています。

「 SYMPREST」は次のような場面で活用されています。

  • オフィスビルの形状や寸法に合わせた、構造架構の提案、設計者による変更に合わせて自動的な躯体数量の計算
  • 作成3Dモデルは断面図が表示されるため、構造の解析の効率化

大林組

大林組では、初期設計のデザイン支援システムとして、「AiCorb」を開発しました。開発目的のきっかけは、従来の設計業務に対して、次の2点の課題があったためです。

  • 顧客への提案から合意までに時間が掛かっていた
  • 工事受注確率を上げるためのより良い設計案の提案の実施を行いたい

そういった課題もふまえて「AiCorb」は、スケッチ や 3 Dモデルのアウトラインからデザイン案に沿った画像を生成する機能と、画像から3Dモデルを生成する2つの機能があります。そのため、「AiCorb」は、設計者の業務負担の軽減を行う機能に特化しているといえるでしょう。

まとめ

自動設計は既に取り組んでいる企業も多く、今後BIMを業界として活用していく場合は広がっていく技術の1つだと想定されます。また、業界として、業務効率化や負担軽減の観点からすれば、多くの企業が取り入れたい技術だといえます。

ただし、自社で導入する場合には、導入コストや専門的な知識が必要となるため、そういった点もふまえたうえでどのように取り入れられていくのか注目しておきましょう。