ジェンダーレストイレの問題点とは|建築事例も紹介
目次
トレンドワード:ジェンダーレストイレ
「ジェンダーレストイレ」についてピックアップします。LGBTQの方に配慮した新しい取り組みとして、注目度が高まっています。本記事では具体的な設計事例のほか、メリット・デメリットについてご紹介します。
ジェンダーレスとは|簡単に解説
ここでは、最近話題に上ることが多い「ジェンダーレス」の意味について簡単に解説します。
ジェンダーレスの意味
ジェンダーレスとは、男性・女性といった性別の差にとらわれない考え方のことを指します。そもそも「ジェンダー」とは社会的・文化的に定義された性差のことで、古くから慣習として根付いてきました。
近年、男性・女性のどちらにも属さない「LGBTQ」の方の存在が注目されるようになってきたことから、ジェンダーレスの価値観が広まっています。
SDGs|ジェンダー平等を実現しよう
持続可能な開発目標(SDGs)には17のゴールが定められていますが、その中にも「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」が含まれています。具体的には、すべての人が性別に関わらず平等に機会が与えられる社会をつくることが目標です。
これまでは男性・女性だけで分類するのが一般的でしたが、新たな考え方として「LGBTQ」の方たちを受け入れることが大切になってきています。LGBTQとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クエスチョニング、クィアの頭文字です。身体と心の性別が異なるといった特性から、不当な差別を受けやすい立場にあります。
しかし「Global Gender Gap Report 2022(WEF)」によると、日本のジェンダー平等の度合いは「116位/146カ国」となっています。日本では世界に比べてまだまだ古い価値観が残っており、課題も多いです。
不当な差別を避けるために性自認を隠している方も多く、男女の区別にとらわれない社会の仕組み作りが求められます。
ジェンダーレストイレとは
ジェンダーレスの取り組みの一つとして「ジェンダーレストイレ」が注目されています。これは男性・女性といった性別に関係なく使えるトイレで、LGBTQの方たちも気兼ねなく使えるように配慮されているのが特徴です。
ジェンダーレストイレの設計事例
ここでは、ジェンダーレストイレの具体的な設計事例についてご紹介します。
①渋谷ソラスタ
清水建設設計の「渋谷ソラスタ」は、2019年竣工のオフィスビルです。渋谷の中心にありながら自然を感じられ、憩いや交流の場となっています。
トイレ設備はTOTOが手掛けており、最上階には多機能トイレ・女性専用トイレ・オールジェンダートイレが備わっています。利用者が使用したいトイレを選択でき、性的マイノリティの方にも配慮したトイレとなっているのが特徴です。
またIoT技術を用い、スマートフォンの専用アプリからトイレの満空状況を一目で確認できるようになっています。これにより混雑が緩和され、効率化が実現されています。
②LIXILオルタナティブ・トイレ
LIXIL社屋の「オルタナティブ・トイレ」は、建築家の永山祐子氏による設計です。「施設側が色々なトイレの選択肢を用意して、使う人に選んでもらおう」という発想からデザインされました。
構成は、男女共用3室(うち多機能トイレ1室)、女性用2室、男性用2室、男性用小便器2室からなります。男性、女性、大人、子ども、健常者、障がい者という枠をなくし、誰もが用途に合わせて自由に場所を選べるという点が特徴です。
また入口にはコミュニティスペースが設けられており、社員同士の雑談などもできる工夫がされています。
ジェンダーレストイレのメリット
ジェンダーレストイレの主なメリットとしては、下記が挙げられます。
- LGBTQの方が利用しやすくなる
- 多目的トイレの混雑緩和
たとえば「外見は男性でも心は女性」という方が女性トイレを利用する場合、本人や他の利用者がお互いに不安や危険を感じることがあるでしょう。そういったトラブルを避けるため、LGBTQの方は多目的トイレを利用されているケースが多いです。
しかし多目的トイレは子連れの方や身体障がい者の方も利用するため、混雑しがちという問題があります。その点、ジェンダーレストイレがあればLGBTQの方が安心して利用でき、多目的トイレの混雑も解消できるでしょう。
ジェンダーレストイレのデメリット・課題
一方でジェンダーレストイレには、デメリットや課題もあります。
- スペースとコストの問題
- プライバシーへの懸念
- 犯罪に繋がる可能性
ジェンダーレストイレを導入するためには、男性用と女性用のトイレを別々に設けるよりも広いスペースが必要となる場合があります。また、設備の増加によりコストがかかる可能性もあるでしょう。
一部の方にとっては、性別によって区別されたトイレの方がプライバシーが守られると感じる場合があります。またジェンダーレストイレの導入は新しい概念であり、悪用されて性犯罪を引き起こす可能性も指摘されています。
ジェンダーレストイレ(新宿・歌舞伎町タワー)が炎上した理由
2023年4月14日に開業した東急歌舞伎町タワーは、ジェンダーレストイレを備えた新しい施設として注目されました。しかし数週間で「外で待ち伏せしている人がいる」「怖くて使えない」といった声から、警備員が配置される事態になってしまいました。
トラブルの原因としては、「男性用・ジェンダーレストイレ」の2種類のトイレしかなかったことが考えられます。女性専用のトイレが設けられていなかったため、大多数の女性が困る結果となりました。
こういった声を受けて、歌舞伎町タワーではジェンダーレストイレの改修を実施しています。暫定的に女性用をパーティションで区切る措置が執られていましたが、2023年8月4日からは男女別のトイレに改修されています。
まとめ|ジェンダー問題を建築で解決できるか
これまでは多数派の快適さだけが重視されてきましたが、意識変革が求められています。全ての人の平等を目指すには、多数派が我慢を強いられる場面も増えると考えられます。今後は「多数派・少数派に関わらず、全ての人がそこそこの満足度を感じられる」という地点に落ち着くよう配慮するのが、真の多様性社会なのではないでしょうか。
ジェンダーレストイレは、これまで少数派だった方々に目を向けた先進的な取り組みです。しかし性犯罪に悪用される危険性もあるため、誰もが安心して過ごせる環境作りが求められるでしょう。