第3回 どうする?住宅の2025年法改正!「建築物省エネ法と省エネ計算・その①」|毎週30日更新

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著者:紺野 透

来年の4月に控えた住宅の法改正について解説する「どうする?住宅の2025年法改正」です。
第3回目の今回は建築物省エネ法と省エネ計算について解説していきます。

▼そのほかの連載記事はこちら
第1回:どうする?住宅の2025年法改正!「概論」
第2回:どうする?住宅の2025年法改正!「4号特例の縮小と構造計算」

建築物省エネ法はどう変わる?

建築物省エネ法改正の背景

住宅の省エネルギーについて基準や様々な規則を定めた法律は「建築物省エネ法」です。一番最初に法律として定められたのは1980年(S55)です。その前年の1979年(S54)に石油危機があり、様々な分野におけるエネルギーの使用について法整備がなされました。エネルギーの使用についてガイドラインを設けた省エネ法ではありますが、住宅についてもはじめて基準が設けられました。旧省エネ基準がそれで、当時の基準はQ値(熱損失係数)によるもので、基準への適合は「努力義務」という表現にとどまっています。

その後、1999年(H11)に次世代省エネ基準、2011年(H23)の東日本大震災を経て、2013年(H25)の改訂で基準値がQ値からUA値に変わりました。また、設備の省エネ性能についても一次エネルギー消費量というものさしで基準を設けるようになりました。
但し、ここでもまだ住宅において基準を満たすことは努力義務であるということに変わりはありませんでした。

その後、2020年(R2)の政府による「ゼロカーボン宣言」を受け、住宅の省エネ基準適合が義務化される予定でしたが、見送られるということがありました。中小工務店などの基準適合率が低く、時期尚早という声があがっていたとも言われています。翌2021年(R3)の改訂で、住宅の省エネルギー基準について基準を達成しているかどうかを含めた性能の説明を施主に向けてするといういわゆる「説明義務」がスタートしました。
ただ、施主側に説明を受けなくとも良いという選択肢が与えられている点や、基準を満たしていないことで直ちに罰則等がある訳ではない点など、課題の残る形です。

この間も、国土交通省など関係機関は基準義務化への道筋を協議していましたが、2022年(R4)の6月公布で全ての建築物における省エネルギー基準適合義務が正式に発表されました。(施行は2025年・令和7年4月1日)

住宅の温熱性能の歴史と経緯

温熱環境に優れた住宅の歴史は北海道の住宅の歴史をたどるとよくわかります。大きく3つの段階に分けてまとめてみます。

①屯田兵住宅からコンクリートブロック住宅へ

明治時代後期、国の政策による屯田兵入植とそれに伴う住宅という位置づけで住宅が整備されますが、住宅の断熱という概念がなかった当時の住環境は厳しいものでした。昭和28年「寒住法」が整備され、ようやくコンクリートブロックによる住宅が多数供給されます。

②住宅の断熱化とナミダダケ事件

道立の寒地建築研究所が発足し、住環境の改善に向けて様々な知見が集められ、昭和40年代に入り住宅に断熱が施されるようになっていきました。ただ、一方でナミダダケ事件(湿気を好むキノコの一種が床下などで繁殖、木を腐らせる)に代表される断熱住宅における湿気の問題が顕在化します。

③北総研と北方型住宅

2002年(H14)寒地研究所は北方建築総合研究所に名を変え、北海道独自の基準を設けた「北方型住宅」を提言します。「北方型住宅」は北海道の気候に最適化できる住宅の仕様や断熱気密方法とその施工技術、更にそれらの住宅のリスト化と管理まで含めた取り組みをはじめ、現在もその運用は進化しながら続いています。

昭和50~60年代は断熱材の普及に伴い、住宅の断熱の在り方も試行錯誤された時期ですが、新住協が発足し、新しい在来工法における正しい断熱のあり方に指針を示した格好になります。寒地研究所も北海道独自の基準を設けた「北方型住宅」を提言しました。

北海道の高性能住宅にはこのような歴史と試行錯誤があります。そしてオイルショック以降、「新住協」(1988年・S63発足の高性能住宅研究団体で高気密高断熱という言葉の生みの親)をはじめとする全国の高性能な住宅づくりに影響を及ぼしています。そういった点で高性能住宅の歴史は北海道住宅の歴史と言えるのです。

省エネ計算は何のため?

住宅省エネ計算の中身

住宅の省エネルギー基準には目的が2つあります。
・ひとつは、ゼロカーボンに向けて住宅で消費するエネルギーを抑えること。
・もうひとつは断熱気密性を上げることで住まう人の健康と快適に寄与することです。
現在の省エネルギー基準においての住宅の省エネ計算は、外皮性能計算と一次エネルギー消費量性能計算の二本立てです。

外皮性能計算では各部位の断熱材の素材や厚み、窓や玄関ドアの断熱性能などを全て数値化して熱の損失量を求め、全体の外皮面積の合計で割り、単位面積当たりの熱損失量を求めます。最終的にUA値という数値で表され、日本を8つの地域に分け、それぞれの地域毎の数値基準が設けられています。(窓などからの日射の取得・遮蔽度合いを数値化したηAC値にも基準があります。)

一次エネルギー消費量計算は、その外皮性能を持つ住宅で用いる設備(暖房・冷房・換気・給湯・照明・太陽光発電)が消費するエネルギー量を計算し、基準と照らし合わせてどのくらい削減できるかを削減率(BEI:Building Energy Index)で表します。

外皮性能であるUA値で地域の基準をクリアし、一次エネルギー消費量においても基準以下に抑えた(BEI≤1)ならば省エネ基準をクリアしたと言えます。

省エネ計算の種類と等級

住宅の省エネ計算には現在4つの方法があります。

①標準計算ルート
②簡易計算ルート
③モデル住宅法
④仕様ルート

標準計算以外は部位毎の面積や長さを計算しませんので作業量としては少ないのですが、数値は弱く出る傾向にあります。

出典|国交省ライブラリー,改正建築法オンライン講座テキストP170,2024年8月21日,https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/04.html

但し、2025年(R7)4月までには①標準計算ルートと④仕様基準に絞られ、②簡易計算と③モデル住宅法は廃止される見通しです。

出典|国交省ライブラリー,省エネ解説テキストP22,2024年8月21日,https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/04.html

計算結果と基準の関係は、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法・H11年)で「断熱等性能等級」として定められています。品確法施行当時の等級は1から4までで等級4が最高等級でした。(6地域で0.87W/㎡k)

その後、R4年の改訂時に等級6・7、一次エネルギー消費量についてもそれまで等級5(BEI:0.9)が最高であったところから更に上位の等級6(BEI:0.8)が創設され、今に至ります。

まとめ

・建築物省エネ法の改正にはその時代の背景が反映されている。
・2020年に基準適合化が見送られるなど、紆余曲折を経て2025年の基準適合義務化へ。
・住宅の温熱性能の歴史は北海道の住宅の歴史と重なる。
・省エネ計算はゼロカーボンと人々のより良い暮らしのため。
・省エネ計算は外皮計算(UA値)と一次エネルギー消費量計算(BEI)
・温熱等級は6・7、一次エネは等級6が最新で最高等級

今回は高性能住宅の歴史や省エネ計算の意味、背景などについて解説しました。
次回は省エネ計算、法制度などのより詳細な中身について解説していきます。

▼そのほかの連載記事はこちら
第1回:どうする?住宅の2025年法改正!「概論」
第2回:どうする?住宅の2025年法改正!「4号特例の縮小と構造計算」

<参考URL>

・国交省資料ライブラリー
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/04.html

・北海道立総合研究機構
https://www.hro.or.jp/building/index.html