国土交通省:木造計画・設計基準の改訂ですべての公共建築を木造化の対象に

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近年の日本では、建材や身の回りのモノを木材に変えるウッド・チェンジや2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、木材の利用を推進する動きが加速しつつあります。

官公庁に関しては、今後はより木造建築が進んで行くと想定されます。では、公共建築物に関連して、2024年4月から施行される木造計画・設計基準の改訂ではこれまでと何が変わるのでしょうか。

今回は、トレンドワードとして、木造計画・設計基準の改訂の内容について詳しくみていきましょう。

「木造計画・設計基準」とは

https://www.mlit.go.jp/common/001178742.pdf

「木造計画・設計基準」とは、2011年5月10日に発表された公共建築物の設計に関して必要な技術や手法などを定めた基準とそれに付随する資料を意味するものです。木造のみに基準を適用するという条件をふまえて、次のような項目を遵守するための方法が掲載されています。

  • 耐久性:50年から60年を目安として使用する前提。シロアリ対策や通気性の確保する(地域性、水の収まりなども言及がある)
  • 防耐火:耐火規定を守りつつ、内装や構造体に木材を使用する
  • 材料:構造計算を行うためJASに定められている建材を使用する(材料強度の確保)

木材であっても耐火性能(炎症しても倒壊・延焼を防止できる)を確保している必要があるという点も規定されています。また、国や地方公共団体が整備する木造の建築物は次のように決まっている点も知っておきましょう。

  • 国民一般の利用に供される学校
  • 社会福祉施設(老人ホーム、保育所等)
  • 病院・診療所
  • 運動施設(体育館、水泳場等)
  • 社会教育施設(図書館、公民館等)
  • 公営住宅等の建築物のほか、国又は地方公共団体の事務・事業又は職員の住居の用に供される庁舎、公務員宿舎等が含まれる。

木材の利用の促進に関する法律との関連性

「木造計画・設計基準及び同資料」の内容は、2011年5月26日交付の「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が規定する内容と関連性があります。

  • 国の責務として公共建築物においては木材の利用に努めなければならない 
  • 基本方針として公共建築物については外装や内装、構造も含めて木質化を図る 
  • 低層建造物は全て木造を前提とする(木造がそぐわない場合を除く)

「木造計画・設計基準及び同資料」は、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を遵守するためのものだといえるでしょう。

公共建築工事標準仕様書との違い

公共建築工事標準仕様書は、公共建築物の工事に使用される標準的な設備や建材、工法をまとめた書類の1つです。たとえば、次のような内容についてまとめられており、仮に逸脱する場合には特記事項として掲載しなければなりません。

  • 規格(統一されたものか標準化されている)
  • 市場性(地域性を考慮しつつ、市場性を確保する)
  • 工法や設備(これまでに実績がある)

「木造計画・設計基準及び同資料」と比較した場合、どちらも木造建築を行う場合には必要だといえるものです。しかし、公共建築物における基準として公共建築工事標準仕様書は官公庁による営繕事業の指針となるため、より重要な役割を持っているといえるでしょう。

中規模以上の木造建築に制限があった理由

2011年当時では、木造建築を推進しておきながらも「木造計画・設計基準及び同資料」の中でも「耐火建造物とされる建築物」や「中層以上の建築物」は推奨の対象ではありませんでした。過去の建築基準法として、高さが13m、軒高が9mを超えた場合、耐火構造にしなければならないという制限があったためです。

これは、木造建築物を制限するためのものではなく、人々の安全性を確保するためのものです。つまり、木造建築物でも耐火構造にできれば、高さに制限はないといえます。

ただし、当時の木造建築物の技術では、木造で耐火構造にすることが難しいケースが多かったと想定されます。たとえば、木造を前提として、地域材を使用して建築するといった場合には、現在でも建築が難しいケースもあるでしょう。

現在では、工法及び建材も進化したことから建築基準法においても緩和され、高さ16m以下・3階以下であれば、木造でも耐火構造にしなくてもよいとされている状況です。

2024年3月末の改訂のポイント

ここでは、2024年3月末の木造計画・設計基準の改訂についてみていきましょう。とくに、全ての公共建築物に対して「原則木造化」とする点などは大きな変化です。

中層以上の建物に対する設計手法の追加

中層以上の建物に関しては、防耐火規定をはじめとして、屋根や壁などの設計に関する手法がまとめられています。たとえば、混構造の木造化に関しては、次のように解説されています。

  • 立面混構造ー最上階・中間層における、会議室やなどを中心に木造とする
  • 平面混構造ー玄関ホールや来庁者スペースを木造にする。ただし、各階の階段やエレベーターといったコア部分、貴重資料・重量物などを保管する倉庫・書庫の部分は鉄筋コンクリート造や鉄骨造とする

柱の構造に関しても記述されているため、今回の改正によって中層以上の木造建築の増加を促す狙いがあるといえるでしょう。

木造建築に対する計画の章の追加

木造建築を計画する際に検討すべき項目を章として追加しています。たとえば、コストや立地に応じた災害対策、耐久性といった性能面などにふれたうえで、次のような内容も留意事項として規定しています。

  • 事務所用途の建築物を木造化するには、スパンを大きくしたうえで、まとまった執務スペースを確保するために大断面の柱や梁を用いると予想される。ただし、大断面の柱や梁に用いる建材は製造可能な場所が限られているため、状況を考慮しながら施工を行う。

まとめ

公共建築物における木造計画・設計基準の改訂によって、「耐火建築物」や「中層以上の建築物」も木造化の推進対象となりました。カーボンニュートラルの実現のためにも公共建築物から木造化を推進していくことで、世の中に木造建築が浸透していくと想定されます。

今後、住宅も含めてエネルギーや環境負荷を考慮した建築物の施工が必須となります。そのうえで、今回の改訂後、公共建築物の木材の使用率がどのように変化していくのかに注目しておきましょう。