住宅におけるコンピュテーショナルデザイン事例
「BIMコンサルの視点で読み解く」は株式会社AMDlab(本社:兵庫県神戸市)のCEO 藤井 章弘氏による連載です。
今月は「住宅におけるコンピュテーショナルデザイン事例について」です。
藤井氏は、BIMをはじめとする建設テックに精通した一級建築士の資格を持つ建築構造デザイナー/構造家です。住宅DXの最前線のキャッチアップに役立ててみてください。
建物の規模によらず、設計シーンにおいて、コンピュテーショナルデザインは強力なデザイン手法です。コンピュテーショナルデザインの活用事例というと新築のケースが多いですが、住宅においては、新築だけでなく改修の計画も非常に多いです。コンピュテーショナルデザインは、新築や改修問わずに活用できるポイントがたくさんあります。
そこで本稿では、いくつかの住居用途を持った改修計画での実例を挙げながらコンピュテーショナルデザインの活用方法をご紹介します。
事例1:縫合する家
建物概要
- 所在地:長野県長野市
- 規模:地上2階
- 構造:木造
- 意匠設計:トベアーキテクト 担当/香川翔勲 林和秀
- 構造設計:AMDlab 担当/藤井章弘
- その他:SDレビュー2021 SD賞受賞、住宅特集2023年5月号掲載
計画概要
先祖から代々受け継がれた築100年の建物は、場当たり的に幾度も増改築が繰り返されてきました。本計画は、そんな設計者の自邸の改修計画です。複雑に絡み合いながら、ぎりぎりのバランスをもった建物はアノニマスにデザインされた魅力を持っています。家を住み継ぎたいという思いがある一方で、自然光が入らず暗いこと、雨漏りや構造的な不安から、空間・構造・環境が分断されてしまった建物をひとつに「縫合」することを目指しました。
従来の筋交いや構造用合板といった面的な補強は視線・動線・環境的要素を遮ってしまいます。そこで、それらを透過する貫を採用することで、空間・構造・環境を縫合しました。貫が建物中央部を基点に各スペースを繋ぎながら、用途に対応した機能を持っています。照明や電気配線、カーテンや本棚、植栽、飾り絵など生活を支えるモノの拠り所となりました。
住まい手や状況とともに使われ方が更新され、暮らしに寄り添う「柔らかい構造」は生活の中に溶け込みながら安心を与え次世代へと受け継がれていきます。
コンピュテーショナルデザインの活用
意匠、構造、環境それぞれの観点から、貫の設置には多くのパラメータの調整が必要でした。それぞれ別々で検討して重ね合わせて議論をしていては、設計が期間内に終わらないことは目に見えていました。そこで、検討を効率良く進めるために、RhinocerosとGrasshopperを用いて高速にパラメトリックスタディが行える専用の仕組みを構築しました。
構造的な性能を担保しつつ、意匠的にも環境的にも合理的な計画となるように最適化し、諸条件を満たした貫を用いた柔らかい構造を実現しました。
事例2:本照寺庫裏改修工事
建物概要
構造設計:AMDlab 担当/藤井章弘
所在地:東京都品川区
規模:地上2階
構造:木造
意匠設計:トベアーキテクト 担当/香川翔勲
計画概要
住職の住居兼事務所であった場所を、地域に開かれたコミュニティスペースへと改修しました。
地域に開かれた場であること、既存の仕上げや建具を残し歴史を伝えることを踏まえ、開口部に耐震要素となる鉄製のロの字型フレームを挿入しました。従来の筋交いや鋼製ブレースではなく、開口部であり耐震要素でもある鉄製フレームは、人々の生活や既存建物の歴史に寄り添う新たな建築の要素となります。
コンピュテーショナルデザインの活用
鉄製フレームの形状や位置等の決定にコンピュテーショナルデザインを活用しました。改修計画のため、そのフレームを設置できる箇所は、おおよそ決まっていましたが、部材サイズや数量等を考慮すると考えられるパターンは多く、計画の初期段階で方針を決める際にRhinoとGrasshopperを用いて検討を行いました。
構造解析にはKarambaを使用しました。性能やコスト等を総合的に判断し、本計画に適した鉄製フレームの形状や配置を導き出しました。
まとめ
ご紹介した上記のプロジェクトでも使用していましたが、コンピュテーショナルデザインは、RhinoとGrasshopperで行うのがおすすめです。比較的安価に導入できる上、できることの幅も広いです。住宅のように一般的に短い設計期間で挑戦するのはハードルが高そうに見えますが、作成したツールは、一度作れば他のプロジェクトに転用可能な部分もあるので、費用対効果を考えると挑戦する価値は大きいと考えます。
取っ掛かりがない場合は、まずは専門家に相談してみることもおすすめです。コンピュテーショナルデザインも一種の専門スキルであり、ソフトを使えることと実際に設計で活用できることには一段ハードルがありますが、他の設計スキル同様、その勘所を掴んで活用できれば設計者の強力な手段になるので、まずは小さなところから是非試してみてください。