無柱大空間は木造で可能。メリットと事例を解説
目次
トレンドワード : 無柱大空間 木造
無柱大空間の設計は、過去に木造での建設は不可能といわれていました。しかし、現在は、建材の材料改良や工法の進化によって可能となりつつあります。本記事では、木造で無柱大空間を設計するメリット、各企業の事例についてみていきましょう。
木造における無柱大空間とは
木造における無柱大空間とは、数十から数百mスパン(柱の中心間の距離)で構成されている空間のことです。柱が部屋に存在しないため、視界が広く、レイアウトも変更しやすいといった特徴があります。とくに、体育館やレストラン、オフィスなどが想像しやすいでしょう。
近年では、木造建築でも数十メートルスパンでの建築ができるようになったものの、過去の木造建築は次のように考えられていました。
- 住宅用であれば、3メートルから6メートルの間でスパンが区切る必要がある
- 住宅以外での木造建築では10メートルを越えた場合にたわみが発生する
- 鉄骨では可能だった設計が全て木造に置き換わった場合、耐震や耐火性などの基準の達成が難しくなる
現在は、強度や防火性、耐久性に優れた木造建築の建材として、大断面集成材やCLTなどが出現したことから大規模建築でも木材を使用できる環境が整っています。
木造の無柱大空間を実現する工法
木造の無柱大空間を実現する手法は、次のようなものが代表的です。
トラス | 部材をトラス(三角形)の形で構成する。設計が複雑になるパターンもあるが、荷重が分散されるため、構造的な安定性に優れる。 |
格子 | CLTなどの建材を格子状の構造にして組み合わせる。設計が難しいものの、見た目が美しく、高い耐久性を誇る。空港やスタジアムなどで使用される |
アーチ | 木材をアーチ状にして組み合わせる。強度が高く、大空間を作りやすい。荷重を分散できる点もメリット。ただし、施工に時間がかかりやすい |
大断面集成材 | 短編が15㎝、断面積が300以上のひき板を重ねた集成材を使用し、接合部に専用の金属を使用する点が特徴。部材として強度があるため、デザイン性を高めやすく、 曲線なども作りやすい |
交差積層木材(CLT) | ひき板の繊維方向を合わせたうえで、交互に交差させ、重ね合わせたCLTを構造体に使用。集成材とはひき板を交差させていない点が異なる。施工が進めやすく、耐火・耐熱性に優れている点が特徴 |
それぞれの建物に要求されるニーズによって、工法が変化します。たとえば、CLTを使用したものであれば、小規模から大規模な木造建築も可能です。用途によって使い分けましょう。
木造での無柱大空間のメリット
ここでは、木造での無柱大空間のメリットについて解説します。レイアウトの変更がしやすい点や設計の自由度が高い点などもふまえて、木造ならではのメリットを知っておきましょう。
軽量化とコスト削減が可能
建物全体の重量が軽量化したうえで、全体的なコストを削減可能です。とくに基礎工事に対する負担が軽減するため、場合によっては総工費が2割ほど安価となるケースもあります。
また、軽量であることから、建築可能な土地の選択肢が広がり、工期が短期化するといったメリットにも期待できるでしょう。
作業負担の軽減と業務効率化が可能
システム建築として提供されるため、現場で作業を行う人々の負担の軽減、業務効率化が可能です。建築物の施工前には、設計や構造計算を行う点から必要な人員数をある程度抑えられます。
施工を行う企業としても、より適切な人員配置が可能となるため、業務効率を向上させたうえで工期の計算もよりしやすくなるでしょう。
温室効果ガスの削減
木は性質として、伐られた段階で二酸化炭素を溜め込む性質があります。そのうえで、建築時の鉄骨と比較した場合の二酸化炭素の排出量は少ないことから、温室効果ガスの削減につなげられるでしょう。
また、建材として使用し、解体するといった場合でも、木は燃焼させなければ二酸化炭素の排出を抑えられます。リサイクルしやすい性質である点も含め、環境にも配慮した建築物の施工が可能となることから、企業としてのブランディングにも役立てられます。
木造による無柱大空間の事例
ここでは、木造による無柱大空間の事例についてみていきましょう。
清水建設株式会社
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2022/2022042.html
清水建設株式会社は、岡山大学の津島キャンパスで「岡山大学共育共創コモンズ」の施工を行い、CLTパネル工法で18m×21.6mの無柱大空間を実現しました。音振動や耐火性にも優れており、大会議室には300人を収容することも可能です。
また、地域の活性化を目的としているため、学生と地域の方との共創の場としても使用していく予定です。木造建築の可能性を発信しつつ、今後も地域社会に貢献していくと想定されるでしょう。
学校法人高知学園
高知学園では、高知学園新学部棟8号館(短期大学の校舎)を木造で建設しました。9.4m×22mの無柱大空間を確保した実験室を3つ確保し、地域社会の先進事例となることを目指した建設計画となっています。
今後は、他の学科にも横展開していく予定であり、木造建築のメリットを活かした地域活性化にもつながっていく可能性が高いといえるでしょう。
桐朋学園大学
桐朋学園大学の仙川キャンパスでは、3階建て校舎と音楽ホールを木造で施工しました。音楽ホール部分では17.4mスパンの無柱大空間を実現し、音響と耐火基準の両方をクリアしています。また、木造ホールの良さを普及するという目的もあり、今後影響を受けた近隣地域の大学に木造建築が広まっていく可能性もあります。
まとめ
木造の無柱大空間は、過去には耐火性能や耐久性といった面から、不可能と考えられていました。しかし、現在では、工法と技術の進化によって、木造での無柱大空間を確保した建築物も増加しつつあります。
今後、カーボンニュートラルやウッド・チェンジなどの動きが加速した場合、中小企業にも木造建築の依頼が増加する可能性があります。そのため、最新の技術チェックや動向の